無数のアリが警戒を怠らずに行き交う巣の中で、一生涯にわたり“潜入ミッション”を続ける小さなコオロギがいます。
その名はアリヅカコオロギ(Myrmecophilus tetramorii)。多くの好蟻性生物(アリの巣に適応して暮らす生物)が、アリの匂いを真似る“化学擬態”で攻撃をかわすのに対して、このコオロギは必ずしも十分な化学戦略を使っていません。
それでも、総勢数千匹にもなるアリだらけの巣の内部を自由に動き回り、餌を探して生活しているのです。
一体どのようにアリたちの防御網をかいくぐっているのか――。
今回、名古屋大学をはじめとする研究グループは、アリヅカコオロギが2種類の逃避スキルを駆使して、アリの巣の中での生涯に渡るスニーキングミッションを成功させていることを示しました。
これは、好蟻性生物の行動を定量的に解析した画期的な成果であり、昆虫の社会性や寄生性を深く理解する手がかりとなります。
アリヅカコオロギたちは、いったいどんなスキルを使っていたのでしょうか?
研究内容の詳細は『Communications Biology』にて公開されています。
目次
- アリヅカコオロギの生涯にわたる「スニーキングミッション」
- アリの巣に潜入したコオロギたちは「バレても捕まらない」
アリヅカコオロギの生涯にわたる「スニーキングミッション」
アリヅカコオロギは、その名のとおり「アリ塚(アリの巣)」で生活するコオロギの仲間です。
一般に、アリの巣は高温多湿が保たれ、さらにアリが運んだ餌や巣内の有機物が豊富に存在するため、他の生物にとっても魅力的な“リソースの宝庫”です。
しかし同時に、コロニー(集団)を形成するアリにとって、よそ者は“侵入者”とみなされ、容赦なく攻撃・排除されてしまいます。