オーストリアで今月10日以降、極右政党「自由党」と保守派政党「国民党」の間で連立政権交渉が続けられている。両党が取り組んだ最初の課題は2025年の予算を早急に算定することだった。国内総生産(GDP)比で3%を超えた財政赤字について、欧州委員会から財政規律違反を問われ、過剰財政是正手続き(EDP)が開始される危険があったからだ。約63億ユーロの歳出削減案をEU側に提出し、幸い、了解を得た。両党が合意した歳出削減案は国民に緊縮を強いるものが多いが、EUからEDPを受けるといった不名誉な事態は回避できた。

自由党の新年会を党員と祝うキックル党首(中央)、2025年01月18日、自由党公式サイトから

そして連立交渉は20日からいよいよ本格的に始まる。自由党によれば、13のテーマ別小委員会がそれぞれ1回ずつ会合を開く予定だ。必要に応じて、キックル党首と国民党党首シュトッカー氏を含氏運営グループも招集される見込みという。各テーマ別小委員会では最大10人が交渉を行い、両党はそれぞれ均等な人数でチームを編成する。

交渉期限は定められていない。自由党のキックル党首が首相に就任する可能性に対する懐疑的な声が多い中、シュトッカー国民党党首(暫定)は連立交渉開始前に、いくつかの基本方針(レッドライン)を明確にしている。具体的には、①オーストリアの主権を外国、特にロシアからの影響から守ること、②EUではオーストリアの建設的な役割を果たすこと、③「自由民主主義と法治国家の保護と維持」が含まれる。また、産業界からは「輸出を促進させるためにも欧州に開かれた貿易政策への支持が重要だ」といった意見が聞かれる。産業界が懸念するのは、キックル自由党主導政権の発足が経済活動でマイナスのイメージとなることだ。

これまでのところ、自由党と国民党の連立交渉が突然破綻する気配はみられない、というより、キックル自由党党首主導の初の政権誕生がいよいよ現実味を帯びてきたとともに、キックル政権の発足を警戒する声がより高まってきている。週末には野党や市民グループが連邦首相府前で抗議デモを開催している。「EU懐疑派のキックル党首がオーストリア首相になればEUの運営に支障をもたらす。キックル党首にはイタリアのジョルジャ・メローニ首相とは異なり、建設的な協力が期待できないからだ」といった声も聞かれる。