皆さんは斎藤守弘(さいとう・もりひろ)という人物をご存じだろうか。1960年代、様々な少年誌やSF雑誌に、UFOや心霊現象、超古代文明、超能力など、種々の超常現象に関する情報を掲載し、超常現象研究に関しては先駆的な役割を果たしたといえる人物だった。また2021年、『列伝体 妖怪学前史』(勉誠出版)が刊行されたのを機に、斎藤守弘の妖怪研究が改めて注目されたのも記憶に新しい。
じつはその斎藤守弘が晩年に取り組んだのが、古代史研究だった。2022年には、斎藤の古代史研究を1冊にまとめた『極孔神仮説で神話や遺跡の謎が解ける』(斎藤守弘・著、羽仁礼・編、ヒカルランド)が出版されたている。今回、編者でありトカナにも多数記事を寄稿している羽仁礼氏に話を聞いた。
■極孔神はユーラシア大陸で崇拝されていた古代信仰の主神
――極孔神(きょくこうしん)仮説とはどんな説か教えていただけますか。
羽仁礼(以下、羽仁):極孔神とは、太古の昔、ユーラシア大陸全域で崇拝されていた古代信仰の主神です。極孔神とそれに関連する信仰については、永らく忘れ去られていましたが、超常現象研究家の斎藤守弘さんが再発見しました。
ひとことでいうと、極孔神とは、天の北極周辺にある暗黒領域を神格化した自然神です。本当はどう呼ばれていたのかは不明で、極孔神という名称も、斎藤さんがつけたものです。
縄文人を含む古代の人々は、この円形の暗黒領域を魂が出入りする場所と考えて、神格化しました。「極孔神」(女性神)に加えて、そのパートナーとなる「男性月神」、さらに魂を極孔神のもとに運ぶ「翼のある蛇」をあわせた3つの神格が、三大至高神(しこうしん)として崇拝されていました。今では失われた古代信仰ですが、その痕跡は世界各地にある遺物や神話に残されています。
『古事記』や『日本書紀』に記された日本神話に登場する造化の三神、つまりアメノミナカヌシ、タカミムスヒ、カミムスヒは、まさに縄文時代の三大至高神に対応します。
その他、多くの神社や、テオティワカン(紀元前200年頃に作られた、メキシコの古代都市)に残されている「死者の道」が真北からある程度ずれていることも、極孔神信仰との関連が指摘されています。
――わかりました。では極孔神仮説によって何がわかるのでしょうか。
羽仁:この極孔神信仰の存在を仮定すると、これまで謎とされてきた古代の遺物の意味がいろいろと明らかになります。たとえば世界各地に残る盃状穴(はいじょうけつ)と呼ばれる円形の窪みも、極孔神を象徴するものだということがわかります。
斎藤守弘さんによれば、1986年9月、八ヶ岳山麓の長野県茅野市(ちのし)米沢埴原田にある棚畑(たなばた)遺跡から発掘された国宝「土偶」(通称・縄文のビーナス、茅野市棚畑遺跡出土)も、極孔神本体を具現化したものだということです。この前提に立つと、ビーナス像の頭部に刻まれた様々な図形も、極孔神信仰の本質を示す縄文記号や縄文神聖数を記したものと考えられます。
さらに皇室の真の先祖や、神話学上ほとんど何もわかっていない月神ツクヨミについても、新しい事実が明らかになります。
この極孔神仮説が正しいとすれば、文字通り古代史の常識を根底からくつがえす大発見です。
――ところで、著者の斎藤守弘さんとはどんな人なのでしょうか。彼は晩年になぜ極孔神を研究しようと思ったのですか。
羽仁:斎藤守弘さんは、日本最初のUFO研究団体である「日本空飛ぶ円盤研究会」の早くからの会員であり、後にプロの作家を輩出することになったSF同人誌『宇宙塵』の創設会員の一人でもあります。
「日本空飛ぶ円盤研究会」の機関誌である『宇宙機』には多くの記事を寄せていましたが、その後は活躍の場を『SFマガジン』や少年・少女誌にまで広げ、UFOや超能力、幽霊、妖怪など、現在オカルトと呼ばれるあらゆる分野で世界中の情報を紹介し続けました。
超常現象の分野では、非常に多くの著書を残しており、当時のテレビ番組にもしばしば登場しています。
しかし斎藤さん自身は、超常現象よりも考古学に大きな関心を持っていたようで、地方を訪れる際には必ずそこの古墳や神社を調査していたということです。こうした長年の研究の結果たどり着いたのが極孔神仮説というわけです。