① 核兵器の使用で放射能が拡散することを防げなければならない。ロシアのプーチン大統領がこれまで何度か核兵器の使用を示唆し、威嚇してきたからだ。同時に、ウクライナにある欧州最大の発電所ザポリージャ原子力発電所の安全操業問題がある。ロシア軍はザポリージャ原子力発電所を一時的に占拠しているからだ。ウクライナはロシア軍の撤退、原発を直ちに国際原子力機関(IAEA)とウクライナ職員の管理下に移管させ、発電所と送電網の通常の接続の回復を要求する。

②世界の穀倉地ウクライナは穀物イニシアチブでアジア、アフリカ、ヨーロッパの国々に3,280万トンの食料を輸出することができた。ロシアが協定から離脱したことで世界の何百万もの人々に穀物を輸出できなくなっている。穀物イニシアチブとウクライナの農産物輸出は回復されなければならない。

③重要な民間インフラへの攻撃は容認できない。ウクライナの発電所、送電線、その他のエネルギーインフラは適切に保護されなければならない。エネルギー資源が兵器として使用されないようにするため、ロシアのエネルギー資源に対する価格制限などの基本的な措置を導入すべきだ。

④軍人・民間人合わせて数千人のウクライナ人がロシアに捕らわれている。子供を含む多くの人が強制送還された。現在、多くの人が残忍な拷問や虐待を受けている。ウクライナは捕虜の釈放と、ロシアに不法移送されたすべての子供と大人の釈放を要求する。

⑤国連憲章第2条には、「全ての加盟国は、国際関係において、いかなる国家の領土保全又は政治的独立に対する武力による威嚇又は武力の行使を控えなければならない」と定められている。ロシアはウクライナに侵攻することで、さまざまな国際協定、法律、原則に違反した。

⑥敵対行為を停止するには、ロシアはウクライナ領土からすべての軍隊と武装組織を撤退させなければならない。国際的に認められているウクライナの国境に対する完全な支配権を回復する必要がある。

⑦いかなる犯罪も処罰されないまま放置されるべきではない。2023年8月の時点で、ウクライナはロシア軍が犯した100万件以上の戦争犯罪を記録している。

⑧環境と野生生物への甚大な被害は、森林の焼失、地雷の原野、汚染された水、動物の殺害など、ロシアの侵略によって引き起こされた。ロシアによるカホフカ水力発電所のダム爆破による環境被害だけでも約15億ドルに上るが、今後数十年にわたって生態系を変えた被害を数字で表すのは難しい。

⑨ウクライナはどの同盟にも加盟しておらず、ブダペストの覚書は実際には国の安全を保証できていない。したがって、現在のロシアの侵略を撃退する場合には、その再発やさらなるエスカレーションのあらゆる可能性を阻止することが不可欠だ。これは、ウクライナに対する適切かつ効果的な安全保障の保証と、ウクライナを含む欧州大西洋空間における戦後の安全保障構造の刷新によってのみ達成可能である。

⑩敵対行為が停止し、安全と正義が回復したら、当事者は戦争の終結を確認する公式文書に署名する必要がある。

「平和の公式」の最後には、「この和平計画に代替案はない。公正で持続可能な平和がどのようなものであるかを定義できるのは、この侵略戦争と戦っている国であるウクライナだけだ。したがって、平和的解決に向けた他の国のすべての取り組みは、ウクライナの和平方式に基づいてのみ行うことができる。ただし、侵略国を除くすべての国家および国際機関の参加は非常に歓迎される。ウクライナは各国に対し、この計画を支持し、できるだけ早く実施するよう支援することを求める」と記述している。

最後に、「ゼレンスキー氏の愛する『平和の公式』」について当方の感想を述べたい。

10項目とも当然の要求であるが、それが実行可能かという点からいえば、いずれの項目も容易ではない。特に、⑥は現時点では非現実的だ。同時に、⑥は「平和の公式」の核心だ。ゼレンスキー氏が⑥を絶対に譲らないとすれば、「平和の公式」はウクライナの一方的な願望を羅列したペーパーに終わるだろう。

戦争はロシア軍の侵略から始まった。正義、公平はウクライナ側にあることは間違いない。正義の側にあるウクライナがその正義、公平の回復に拘る限り、プーチン大統領のロシアとの戦いは更に長期化せざるを得なくなる。ロシア側だけではなく、ウクライナ側にも更なる犠牲が出てくることは避けられない。

イスラエルの著名な歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は「『平和』(peace)と『公平』(justice)のどちらかを選ぶとすれば、『平和』を選ぶべきだ。世界の歴史で『平和協定』といわれるものは紛争当事者の妥協を土台として成立されたものが多い。『平和』ではなく、『公平』を選び、完全な公平を追求していけば、戦いは終わらず、続く」と述べている。

ハラリ氏の主張は誤解されやすいかもしれないが、世界の歴史に精通する同氏の歴史からの教訓だろう。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年12月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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