細部の熟成に課題はあるが、パフォーマンスは素晴らしく、静粛性も上々
アウトバーンで、西独のカントリーロードで、レクサスLSの走りは素晴らしかった。世界は広いが、クルマがいちばん活き活きと走るのは西独である。北海道の士別テストコースで乗ったときに「ついに日本車もここまで来たか」という感激を味わったが、思い切りアクセルを踏みつけて、感激はさらに本物になった。
アウトバーンでのレクサスのトップスピードは270km/h(メーターは260km/hまで表示)をわずかに超えた。こんなことが現実に日本車で体験できるとは、つい最近まで思ってもみなかった。メーター誤差は最大5%程度というから、実測値としても257km/hに近い。道はやや下り勾配だったが、レクサスのマークしたスピードには、拍手を送る価値は大いにある。しかも270km/hプラスのスピードを、レクサスはかなり気軽にマークしたのである。ボクは手に汗も握らなかったし、フラフラするクルマを必死で直進させたわけでもない。ただ、前方に障害がないのでアクセルを踏んでいたら、スムーズにスピードが出たのだ。レクサスはスタビリティもいいのである。そんなレベルでも、4リッターのV8(260ps/36.0kgm)は洗練された軽快なハミングを、遠くでかすかに奏でているにすぎなかった。
高速をストレスなく走れるのは。クルマの実力を証明するひとつのビッグメダルになる。レクサスには、その勲章を与えるにふさわしい実力がある。
しかし、レクサスのすべてが十分に仕上がっているとは、さすがに言い切れない。スタビリティにしても淡々と飛ばすには問題はない。だが160km/h以上で急なレーンチェンジを強要されるケースだと、まだ不満がある。エアサスと金属サスのクルマで少し違うが、160km/h オーバーでの激しいアクションでは、クルマの挙動とステアリングの動きの間に不調和が出る。揺り戻し現象も気になるレベルだ。180〜190km/hになると、横風や他車の横をすり抜けるときの影響など、研究課題が残る。
もっとも、これらの各種注文は、いずいれも「特殊状況」でのものだ。世界広しといえども、超高速が合法的に許されるのはアウトバーンのみ。レクサスの主力市場となるアメリカと日本の路上では、ほとんど問題にならない。また問題にするユーザーもいないだろう。レクサスを手に入れたユーザーのほとんどは、無類の静かさに感激し、滑らかな駆動系と快適な乗り心地(とくにエアサス車)にうれしくなる。素晴らしい動力性能に陶酔し、アメリカでも日本でも「いい買い物をした」と満足するに違いない。
ボク自身は50〜60km/h以下の低速度の乗り心地と、130〜140km/h以上の風騒音が、いささか気になった。路面からの入力変化に対して、ショックの伝え方の変化の幅が大きい点も改善を望みたい。だが、ボクの気になるポイントも、ユーザーはたいていの場合、見過ごしてしまうレベルかもしれない。
とにかくレクサスは、メルセデスやBMWと同じ土俵上に並べて語ることができる実力を備えたクルマである。今回、西独の試乗を通じてハッキリとわかった。これで前述の「高級車の薫り」といったテイストを身につけるようになれば、レクサスは真の「世界の高級車」として高いランクにつけるはずだ。
それにしても、このレクサスをメルセデスのミディアムシリーズやBMWの5シリーズよりも安い価格で販売するとは……。日本の自動車産業はまた、大きなステップアップを果たしたと世界にアピールすることになるのは間違いない。
※CD誌1989年10月26日号掲載
提供元・CAR and DRIVER
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