セルビア最大の石油会社NISの「脱ロシア化」への圧力は、ヴチッチ大統領を明らかに困難な状況に追い込んでいる。ヴェルマ次官補はベオグラードで、制裁がガスプロム・ネフチを対象としていることを明言し、「NISはロシアの共同所有者との関係を断たなければならない」という。
バルカン諸国は旧ユーゴスラビア連邦の崩壊後、6共和国(2自治州)から構成された共和国がいずれも独立国家となったが、冷戦時代にソ連共産圏の影響下にあったこともあって、ロシアとはその後も伝統的な友好関係を維持してきた国が多い。特に、セルビアはロシアと関係が深く、セルビア正教会は同じ東方正教会に属するロシア正教会と深い関係を持っている数少ない正教会だ。
ヴチッチ大統領は欧州連合(EU)加盟を模索し、ブリュッセルのバルカン半島の欧州統合政策に積極的に応じている。要するに、セルビアの国家オリエンテーションはロシアとEUの両方向に向いているわけだ。東か、西か、といったハムレット的な二者択一の悩みではなく、東も西もセルビアの国益に合致する限り、関係を深めていくという一種のプラグマティズム(実用主義)だ。それに対し、米国はセルビアの「バランス外交」に対して批判的だ。トランプ政権が始まれば、セルビアへの圧力が強まることは必至の状況だ。
米国が懸念している点は、セルビアがロシアだけではなく、中国共産党政権との関係を深めていることだ。ただ、ロシアのプーチン大統領がウクライナに軍を侵攻させて以来、バルカンでもロシアの政治的影響が揺れ出したのとは対照的に、中国の影響が広がってきている。ここでもセルビアの中国接近は際立っている。
中国企業がセルビアに進出、ハンガリー・セルビア鉄道、ノビサド・ルマ高速道路の建設をはじめ、2016年には中国鉄鋼大手の河北鉄鋼集団が、セルビア・スメデレボの鉄鋼プラントを買収した。2018年8月末にはベオグラード南東部にある欧州最大の銅生産地ボルの「RTBボル」銅鉱山会社の株63%を12億6000万ドルで中国資源大手の紫金鉱業が落札した。