【上昇の背景】世界のコロナ禍と日本のGIGAスクール促進

2020年に入り新型コロナのパンデミックが世界を襲い、結果として教育の停滞が世界的に起きた。日本も流行初期こそ休校措置を実施したがその後は手探りながらも感染対策に尽くした。そのため修学旅行や学校行事の自粛など学生・生徒・児童やその家族に大きな負担をかけながらも学校教育が停滞することはなかった。

ここで特筆すべきは、教育現場の教職員の奮闘と文部科学省等の行政による「GIGAスクール」の促進である。感染症対策の文脈と合わせて、ICT機器を活用した教育の維持向上を目指した。具体的には「一人一台」の教育用ICT機器の配布とそれを活用した情報教育に尽力していたことを忘れることはできない。なお報道されていないが、これらの背景に萩生田文部科学大臣の決心と尽力があったことを筆者は偶々知っている。

程度の差はあれ世界各国が感染症の流行で教育行政の遅滞を招いていた一方で、日本が相対的には環境適応に成功した結果、相対的な国際順位は11位から2位(OECD加盟37か国中)へと急上昇した。

読解偏重の大学入学共通テストを修正せよ

※本項目は私見を踏まえた要望である。

2020年まで行われていた大学入試センター試験に代わって2021年1月から「大学入学共通テスト」が開始された。この試験の設計が進む最中に「PISA2018読解力低下ショック」が出来した。その因果関係の強さは筆者にはわからないが、事実として現行の試験では「情報読み取り能力」を判定する傾向が強く打ち出されている。

筆者は当該テスト受験生に対して数学を中心に指導を続けてきたが、「数学力」を見るうえでは旧センター試験時代の問題設定のほうが適していると考えている。

その理由を簡単に言えば次の通りである。

現行の共通テストで受験生は、大量の文章読解と情報読み取りを強要される。相対的な時間不足のなかで情報取得に忙しく「問題解決のための熟考」をすることがなかなか許されない。そのため不本意ながら「反射的な解答技術」を磨くことが求められる。これは、深い思索が必要なタイプの数学的素養を測定するにはやや不適切な問題セッティングである。

事実、(統計的調査の結果ではなく個人的な経験にすぎないが)「数学的素養の高い受験生」でも丁寧に思考を尽くすタイプの場合にはスピード練習を積まないと満点がとりにくい。丁寧に読み解くには時間が足りないのである。この点で旧センター試験時代の問題の方が文章量的にも内容的にも適切であった。

ほかの科目においても同様の傾向が見られ、全体として「大量の文章を読解し情報を読み取る情報リテラシー」試験の色合いが強く、深い思索に優れた人材が国公立大学に進学する上で不利となる試験が実施されていると感じる。そのため現行の大学入試制度に関して、人材の選抜と登用という観点から大いに疑問を感じている。ただしこの選抜方法変更の影響が判明するのは10年以上のちのことであろう。

PISA2022において日本の読解力の相対順位が復活した現在、どうかショックから解放されて、せめて数学だけでも旧センター試験時代のテスト形式に戻すことはできないだろうか。それが受験生のためであり、将来の日本のためにもなると筆者は考える。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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