次が問題です。「すると安倍さんは『絶対に迷惑がかからないようにします。それは僕が保障します』という。それを信じて招致に関わるようになった」(同)。高橋被告は組織委の理事に就任しました。
いかに総理とはいえ、犯罪的要素が派生してくるかもしれない懸念に対し「迷惑を掛けない」、「僕が保障する」といったのが事実とすれば、絶句に値する。全く似た記事が過去にあったのを思い出します。
月刊文芸春秋が確か22年8月の五輪疑惑を特集し、ノンフィクション・ライターによる同じような記事を載せました。「五輪誘致に絡むと後で逮捕されることにもなりかねない」と尻込みする高橋氏に対し、「安倍首相が『逮捕されるようなことにはしない』というので信じた」と。
「検察を俺が抑えてやるから心配するな。司法なんかなんとでもなる」という意味でしょう。思い上がりというか狡猾というか。
首相官邸には警察、法務省の幹部OBが補佐官などになり、司法の現場に口を出していたというのは常識的でしょう。桜見の会、モリカケ疑惑、財務局における公文書偽造事件などに、そうした事例が見受けられます。「僕が保障するから」と、安倍氏はいったということはありえます。
もう一つは高橋被告が「森・元首相から、あなたはマーケティング担当理事です」なんて言われたことは「一度もない」(同)と断言していることです。「委任の契約書にも、職務について何も明記されていない。職務権限のあるマーケティング担当理事なんてものは存在しないのです。マーケティングは森会長一任に決まっていた」(同)。
検察に対する森氏の供述書では、高橋被告に職務権限があることになっている。もし職務権限がなければ、高橋氏側がスポンサーから受け取った報酬は賄賂ではなく、コンサルタント料という解釈も通らないわけではない。贈賄側は賄賂と認識している。
ここは重要なポイントです。ですから被告側から、「裁判長、元会長(森氏)の証人尋問が必要です」との要求がでているのは不思議ではありません。
組織委の事務総長・武藤敏郎氏は財務次官OBです。「外部理事もみなし公務員の扱いになり、職務はこれこれです」と、高橋氏を招請した際に説明を尽くし、証拠を残しておくべきでした。後になってから、「職務について契約書には何も明記されていない。みなし公務員との説明も受けていなかった」と抗弁される道を封じておくべきでした。
「AOKIの青木・元会長が見舞金の名目で現金200万円を森氏に渡したとされる問題で、森氏は金銭の授受を否定している」(同)。見舞金にしては多額です。密室での現金のやり取りは証拠が残らない。見舞金はスポンサー契約をしてもらった実質的な謝礼だったかもしれない。
キャッシュレス時代、お金の流れに透明性を持たせることになるマイナンバーの時代というのに、政界は時代遅れの現金を大事にする。マネーロンダリング(資金洗浄)ためでしょう。パーティー券収入の過少記載、闇に包まれたキックバックの不記載は、ある種のマネーロンダリングです。
政界にはマネーロンダリングが大手を振って存在しています。政治家の金銭取引は銀行口座経由を義務付け、マイナンバーを紐付けし、透明性を持たせる。このことが五輪疑惑、パーティー券裏金疑惑ではっきりしました。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年2月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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