張氏と彼のチームは2020年1月5日にコロナウイルスの配列を解析したが、当局から情報公開の許可を得られなかったので、1月11日にそのシーケンスを許可なく公開した。総合科学ジャーナル「ネイチャー」誌(日本語版)は2020年2月4日、「張永振(Yong-Zhen Zhang)たちの研究チームは、2019年12月26日から武漢の病院に入院し、呼吸器疾患の症状(発熱、胸部圧迫感、咳など)を呈した41歳の男性(海鮮市場の従業員)を調べた。研究チームは、この患者から採取した気管支肺胞洗浄液(肺の分泌物の一種)の検体を使ってゲノムの塩基配列を解読した。その結果、新型ウイルスが同定され、このウイルスのゲノムとコウモリに由来する重症急性呼吸器症候群(SARS)様コロナウイルスのゲノムとは、ヌクレオチドの89.1%が同じであることが分かった」と報じている。
これにより、世界中の保健当局がウイルスの研究を開始し、検査キット、ワクチン接種、疾病管理対策の開発に繋がっていった。張氏はその功績により数々の賞を受賞した。しかし、その後、彼の研究室はより厳しく管理されたという。張氏はまた、中国疾病管理予防センターのポストからも外され、元パートナーの一部との協力も中止され、研究に支障をきたした。
コロナウイルスの発生源問題では、米エネルギー省が昨年2月、中国武漢発「新型コロナウイルス」の発生起源が「武漢ウイルス研究所」(WIV)からの流出との結論に至ったという。同省の結論は新たな情報に基づいて下されたというが、その詳細な情報は明らかになっていない(「米エネルギー省発『WIV流出説』」2023年3月1日参考)。
それに先立ち、米上院厚生教育労働年金委員会(HELP)の少数派監視スタッフの共和党議員らが15カ月間にわたり調査、研究して作成した「COVID-19パンデミックの起源の分析、中間報告」((An Analysis of the Origins of the COVID-19 Pandemic Interim Report)が2022年10月下旬、公表され、関心を呼んだ。同報告書は全35頁、4章から構成され、結論として、「公開されている情報の分析に基づいて、COVID-19のパンデミックは、研究関連で生じた事件(事故)の結果である可能性が高い」と指摘、「WIV流出説」を支持している。ただ、米政府当局は「最終的結論はまだ下していない」という姿勢を維持している。
SARS-CoV-2の起源をより明確に結論付けるためには、重要な未解決問題が明かにならなければならない。例えば、①SARS-CoV-2の中間宿主種は何か、最初にヒトに感染したのはどこか?②SARS-CoV-2のウイルス貯蔵庫はどこか?③SARS-CoV-2は、フリン切断部位などの独自の遺伝的特徴をどのように獲得したか?等々だ。問題は、中国政府および公衆衛生当局からの透明性と協力の欠如がSARS-CoV-2の起源に関してより決定的な結論に到達することを妨げていることだ。
調査ジャーナリストとして著名なシャリー・マークソン女史(Sharri Markson)は、「中国共産党政権は世界の覇権を握るために世界のグローバル化を巧みに利用し、最新の科学技術、情報を手に入れてきた。武漢ウイルスはそのグローバル化の恩恵を受けて誕生してきたのだ」と述べている(「武漢ウイルス発生源解明は可能だ」2021年11月2日参考)。
APが報道した張永振氏のケースは、中国当局が新型コロナウイルスの発生源をどうしても隠蔽しなければならない事情があることを改めて明らかにした。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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