これも米国のシンボル的存在でした。「ジャパン・バッシング(日本叩き)」に火を注ぐ形になりました。買収するならう無名に案件にしておけばまだよかった。バッシングの時代から、日本は30年間の経済停滞期に入り、やっと2月に34年前の最高値の株価を取り戻しました。

今や日本パッシング(素通り)の時代であっても、米国は今年、大統領選挙の年です。1901年の創業で、長く世界的な企業であり続けたUSスチールは、現在世界ランキングでは今や25位以下です。日鉄は2位で、上位10社のうち6社が中国勢です。USスチールの経営陣は、日鉄による救済買収、再建という選択を目指したのでしょうか。

それでもUSスチールという社名を聞けば、「シンボル的な存在であった」と思うのが常識です。すでにシンボルではなくなっているとしても、大統領選の年で政治問題化するリスクする恐れがあることをよく考えたのでしょうか。こちらのほうがやっかいです。不用意であったと思います。

共和党候補をほぼ確定したトランプ・前大統領は「即座に阻止する」と発言しました。トランプ氏との再選になろうバイデン大統領は「国内で所有・運営される米鉄鋼企業であり続けることが重要だ」と、述べました。

ラストベルト(錆びついた工業地帯)にあるUSスチールの労働組合も「米国人の鉄鋼労働者によって運営される強力は米国の鉄鋼会社を維持することが重要だ」と強調しています。接戦州のわずかな票数に勝敗が左右される。そこに日鉄ははまりこんでしまった。

直接的には対米国投資委員会を通じて買収を厳格に審査する流れです。「日米は同盟国であるから、適正な扱いを受けられる」という経済的な甘い正論は通用しない。接戦が予想される大統領選のカギを握っているラストベルトの労働者票を両候補は重視する。

今になって日鉄の経営陣は「買収による救済、再建なら歓迎されると考えた。それがこんなに政治問題化するとは・・」と思っているのかもしれません。とにかく早期に交渉を凍結することが出血を抑えることになる。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年3月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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