政治リスクの懸念を軽視

日本鉄鋼メーカー、日鉄による米国のシンボルともいえるUSスチールの買収は案の定、トランプ、バイデン両氏の反対で暗礁に乗り上げました。日鉄の経営陣が政治問題化のリスクを甘くみた結果でしょう。

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日鉄が2兆円という巨費を投入するというので驚きました。今の流れからすると、すでに政治問題化しており、買収が成功するか否か、大統領選の影響を受け、かなり危うい状況でしょう。政治的リスクに対する経営感覚が甘かったと思います。

日鉄経営陣はまず、買収を発表したタイミング(昨年12月)の悪さを反省すると同時に、少なくとも「大統領選の期間中は買収交渉を中断する」という決定を早期にし、公表すべきでしょう。

円安で買収金額が膨大になりましたから、政治的側面はクリアしているのかなと想像しましたら、そうではないようです。もし、ご破算にでもなるようしたら、意思決定した経営者は退陣に値します。

かりに成功したとしても、不利な条件を次々に求められ、高いものにつくでしょう。弁護士費用、議会に対するロビー活動の費用といい、それらも巨額に上る。とにかく大統領選の直前に、なぜこのような重大な案件を公表したのかと思っている人は多いでしょう。

日本企業に勢いがあった頃、何度も米国のシンボルを脅かし、政治問題化しました。1970年代に日本車の対米輸出が急増し、ゼネラル・モーター(GM)などビッグスリーの経営危機に追い込まれました。日本車を労組員がハンマーで叩き割るという蛮行がニュースになりました。

結局、日米自動車交渉が行われ、日本側が対米輸出の自主規制(輸出台数の制限)に応じることで決着しました。当時の米国は自動車王国で、その象徴がGMでしたから、経済合理性は後景に追いやられました。

日本がバブル経済のピークの頃、地価が暴騰し、皇居の土地代だけでカリフォルニア州を買えると、自慢気に語る人もいました。三菱地所がニューヨーク・マンハッタンのロックフェラー・センタービルを買収(51%の株を取得)したのは1989年でした。