ドイツ連邦議会(下院)は2月23日、大麻の所持を合法化する法案を可決した。上院で採択されれば、4月1日から施行される。法案では、18歳以上の成人は25グラム以内の大麻を所持できる。ドイツ通信(DPA)によると、子供たちが集まる学校や関連施設を除き、18歳以上の国民は公共の場で25グラムまで、私的な場では50グラムまでの大麻の所持を認めるが、18歳未満の未成年者の大麻消費は違法のままだ。また、成人は3株以内ならば自宅で大麻を栽培できる。

「今、大麻が危ない!」(日本厚生労働省公式サイトから)

ラウターバッハ保健相(SPD)とオズデミール農業相(緑の党)は昨年4月12日、大麻の部分的合法化に関する関連法案を発表した。大麻の合法化は、SPD、緑の党、自由民主党の3党から成る“信号機連合”の目玉プロジェクトの1つだ。ショルツ連立政権は2021年12月に発足した際、FDPの強い要求に基づき、大麻の合法化を連立協定の中に明記した。狙いは、少量の大麻消費の合法化(非犯罪化)を推進することだった。ただし、FDPが主張してきた大麻のオンライン販売は今回の法案には含まれていない。欧州の大国ドイツが大麻の所持を合法化した場合、他の欧州諸国にもその影響は波及し、大麻の合法化が欧州全土に拡大することが予想されている。

ドイツ連邦議会が大麻の合法化法案を可決したと聞いた時、当方は「このような時期に大麻の合法化を決めるとは……」と呟かざるを得なかった。ここでいう「このような時期」とは、ドイツの国民経済はマイナス成長でリセッション(景気後退)に陥り、鉄道。航空、農業、自動車業界などさまざまな産業分野で賃上げ、労働条件の改善を要求したデモが連日、ドイツの各地で行われている時だ。英誌エコノミストは昨年、ドイツの国民経済の現状を分析し、「ドイツは欧州の病人だ」と診断を下した。ドイツの現状は、デモが多発し、労働者が勤労意欲を失っていった1970年代から80年代の英国病を思い出させてしまう。

「そのような時」にドイツで他の欧州諸国に先駆けて、「大麻の合法化」が施行されるのだ。麻薬にも医療用麻薬があるが、病人となったドイツ国民にとって、「大麻の合法化」は奈落への道案内のように感じてしまうのだ。

ドイツでは、移民・難民が増加、国内で外国人排斥、反ユダヤ主義の急増、若年層の犯罪増加、それを受けて極右・極左の過激主義が拡大してきている。目を外に向けると、ウクライナとロシアの戦争が3年目を迎え、エネルギーの高騰、物価高などでドイツ国民の生活は厳しくなってきた。中東ではイスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム過激テロ組織「ハマス」との戦闘といった具合で、ドイツを取り巻く政治情勢は明るくはない。

「そのような時」にドイツで大麻が合法化されたわけだ。人は苦しくなると、それを忘れるためアルコールや麻薬に走るケースが増加する。大麻の合法化は国民に間違ったサインを送ることになる、という思いが強まるのだ。

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