人は自分が思っているよりずっとやさしい

コロナ前の出張時の話。当時私の会社では出張に行くと現地のスタッフが労いの意もこめて、当日の飲みの場を用意してくれるのが慣習化していた。そのときも出張先の上の人が「今日夜空いてる?」と声をかけてきてくれた。

歓迎してくれる気持ちは嬉しい。しかし私は疲れていたし、できれば部屋に戻って休息を取りたかった。だが一方で、せっかく誘ってくれているのにそれを断るのは申しわけない。その葛藤のなか「いや。断ることが今、自分に与えられたミッションなんだ!」と思いいたった。

そう割り切った私は「ヨシッ」と自分の中で気合いをいれ、「ありがとうございます。ですが今日は疲れてしまったので休ませていただきます」と切り出した。

さぁ、どんな反応が返ってくるだろう……。ビクビクしながら相手の反応を待っていると、意外にも「そりゃあ、そうだよなー。今日は早く帰って休め〜(笑)」という、予想外の温かい言葉が返ってきたのだ。

これを契機に、会社の飲み会を堂々と断る「ミッション」はこの後も何度もトライした。いずれも私が想像していたような冷たい反応、たとえばあからさまに嫌な顔をされるなどはなかった。

このミッションを通して私が学んだことは「人は自分が思っているよりずっとやさしい」というものだった。この学びが断る自信につながっていった。飲み会を堂々と断ることができるようになれば、仕事を断ることもその応用にすぎない。必要になるのはほんの少しの勇気と交渉力だ。

可能な限りシンプルに「NO」を伝える️

仕事を断るときの鉄則の一つ目は、可能な限りシンプルに「NO」を伝えることだ。

たとえば仕事が立て込んでいる時期に同僚からあらたな仕事を依頼されたとする。そんなとき私なら「依頼してくれてありがとう。でも今ちょっと余裕がなくて引き受けられないんだ」とだけ相手に伝えるだろう。

これまでの経験上、大抵はこれで十分だ。同僚であれば私の状況など少しは耳に入っているだろうし、すぐに察して「OK。また手が空いたら別の案件にでも手を貸してくれ」と言って引き下がってくれる。

仕事を断ることに罪悪感を感じると、ついいろいろと言いわけをしたくなる。その気持ちはわかる。しかし喋れば喋るほど、相手側に交渉のチャンスを与えてしまうのだ。「そういう理由だったら、こうすればこの仕事を引き受けられるんじゃない?」と逃げ道をつぶされてしまえば、返す言葉もなくなるだろう。

断るときは「シンプルイズベスト」。覚えておいてほしい。相手に反論の材料をわざわざ提供する必要はない。シンプルに「無理」と相手に伝えることを心がけよう。

「頼ってくれてありがとう」というメッセージを伝える

仕事を断るときの鉄則の二つ目は、「頼ってくれてありがとう」というメッセージを伝えることだ。

先の例で私は「依頼してくれてありがとう」と最初に伝えている。これは「仕事を断っているのであって、あなた自身を拒絶してるわけではないよ」というメッセージを相手に伝えることを目的にしている。

仕事を断られても、なんとも感じない人もいる。実際、イ・ミンギュ著『「後回し」にしない技術 「すぐやる人」になる20の方法』(文響社)によれば、「断られたときにどう感じるか」を問うアンケートで65.9%の人が「そんなこともあると思う」と答えている。

大半の人は仕事を断られても傷ついたりしないようだ。しかし中には昔の私のように、自分が拒絶されたように感じてしまう人もいる。

そんな人に向けて「断っているのは今回の依頼で、あなたへの拒絶ではない」というメッセージを伝えることは最低限の思いやりだと私は考えている。

滝川 徹(タスク管理の専門家) 1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。

■残業しない方が仕事が早く片付くワケ(滝川徹  時短コンサルタント) ■目的を考えて働けば、1時間の会議は数分で済む(滝川徹  時短コンサルタント) ■労働時間を変えずに1.5倍の成果を出す、うまい手の抜き方(滝川徹  時短コンサルタント) ■仕事で「誰も助けてくれない」と感じる人が見落としている視点 (滝川徹  時短コンサルタント) ■罪悪感なく人に仕事を振れるようになる2つのポイント(滝川徹  時短コンサルタント)

編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年5月16日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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