まず、中間管理職は経営層から売上や利益の増大等の会社の利益に直結する課題に取り組むとともに、働き方改革を推進するために自組織の労働時間の削減や、メンバーそれぞれの求める働き方への対応という、一見すると相反する要素の同時実現が求められています。この時点で既に非常に高難度なマネジメントが要求されていますが、さらにこの難易度は部下からの突き上げによっていっそう高まります。

この働き方改革を逆手に取った部下は「この会社では自分の意見は全て容認され、自分の思った通り自由に働くことができる(極端にいうと働きたくなかったら働かなくていい)」と勘違いし、逆パワハラとも言える個人的なわがままを上司に進言してくることもあるのです。

なんとか部下の思う環境を整えようとあらゆる策を講じますが、全てが実現できないと「上司ガチャがハズレた」と言われ、退職を切り出される始末です。

中間管理職は上下から板挟みにあい、非常に高いストレスを抱えながら日々の業務にあたっているため、優しい人であればあるほど部下を持つことやチームをマネジメントすることが億劫になってしまうことでしょう。

ただ、問題はこれに留まりません。このような負荷をかけられた中間管理職は会社のこと、部下のことを思うがあまり、いつの間にか「ゆるブラック」な職場環境を作り出す要因になってしまっているのです。

「ゆるブラック」な環境が奪う、若手の成長意欲

「ゆるブラック企業」。いわゆるブラック企業のような長時間労働やパワハラなどはないものの、自身の成長や昇給などが見込めない企業。ホワイト企業とブラック企業の両方の側面を持つ特徴があるが、長期的な視点で見るとブラック企業に近いことからパープル企業とも呼ばれる。

これは働き方改革の推進に失敗し、行き先を間違えた企業がたどり着く末日です。働きやすい環境を整えようとあらゆる負荷(成長に必要な負荷を含む)の排除を試みた結果、会社としての業績は伸び悩み、企業成長や個人のキャリアプランをイメージすることができず、若手の働く意欲を削ぎ落とし、離職をも促すという組織環境が生み出されてしまうのです。

会社や部下のことを考えマネジメントを続けてきた結果が、皮肉にも企業衰退を後押ししてしまう例も枚挙にいとまがないのです。

成長意欲を促す適切な目標設定

ではこのような状況に終止符を打ち、組織を好循環に導く効果的な施策は何なのでしょうか?その鍵を握るのが「目標設定」のスキルなのです。

目標とは、目的地に到達するための旗印であり、この目印があることにより組織やメンバーは目的地に対してスムーズに進んでいくことができます。もちろん、あえてゴールを設定せずに行動することで思いがけない成果を得られる可能性もありますが、イメージが鮮明な適切なゴール設定は、多くの場合、目標に向かう行動を促進し、さらには成長意欲も掻き立てることができるのです。

テレビ・スマホ等のゲームを例に考えてみましょう。多くの人は少なからずゲームに夢中になった経験があると思います。ではなぜ人はゲームにハマるのでしょうか? それは適切なゴールが常に設定されているからです。

まずは難易度の低いところから始まり、クリアするごとに少しずつレベルが上がっていきます。そのゴールをクリアするごとに人は楽しさを覚え、のめり込んでいくのです。そしていつの間にか達人のようなスピードでスマホやコントローラーを操作できるようになっています。絶妙なゴール設定がなされているゲームは、目標設定のコントロールにより、(ゲームに対する)成長意欲を引き出している最たる例でしょう。

ゆるブラック企業はこの目標設定をも排除することにより、成長意欲、ゴール達成の楽しさをも社員から奪ってしまっているのです。

目標設定には強度のコントロールが必要

ただし、目標は単に設定すればいいというものではありません。簡単すぎるゴール設定はすぐに飽きてしまいますし、一方難しすぎる設定ではチャレンジする意欲を削ぎます。あくまで、組織の状態や個人に合った「適切」な目標設定が必要なのです。

つまり、強度の低すぎる組織が「ゆるブラック」であり、強度の高すぎる組織が「ブラック」企業なのです。よってリーダーが組織や個人を正確に見極め、目標を設定することが求められます。逆にいうと、この適切な設定ができれば、組織の生産性を高め、個人の成長意欲を促し、達成感という楽しさによって幸福感も得られるという真の「働き方改革」の実現に近づくことができるのです。

目標設定と運用のポイント

では、目標設定をする際のポイントを以下に整理します。

具体性(Specific):目標は具体的で明確であるべきです。漠然とした目標では、達成のための手段が見えにくくなります。 計測可能性(Measurable):目標は数値や観察可能な基準で測定できるようにすることが重要です。進捗を追跡しやすくするためです。 達成可能性(Achievable):目標は現実的で達成可能なものであるべきです。過度に高い目標を立てるとモチベーションを失う可能性があります。 関連性(Relevant):目標は自身の価値観や長期的な目標と関連しているべきです。目的や理想に合致しているかどうかを考えましょう。 時間枠(Time-bound):目標には期限が必要です。期限を設定することで、目標達成までの時間を明確にし、焦点を維持することができます。

このようなポイントを踏まえた上で、リーダーは目標設定を繰り返し、設定の精度を向上させることが求められます。

そしてさらに重要なのが設定後の運用です。

目標設定を行った後は、目標達成までの道のりを部下自身に考えさせ、自らの力でゴールに向かわせることが何より大切です。

上司は厳しかろうと、優しかろうと、途中経過が気になるものです。そこでつい経過に口を出してしまうことが、せっかくの目標設定を台無しにしてしまうのです。

経過に口を出してしまう上司の下では、部下は当然指示待ち思考になり、また一方でその指示通り実行した上でうまくいかなかった場合は、その原因が上司の指示だとし、言い訳思考にもつながります。さらにしつこく経過に指示を出すと、ゴールに向かうためのただの手段であるはずのプロセスを実行することが目的(ゴール)だと勘違いしてしまいます。

部下が自分の力でゴールに向かい、到達するからこそ、部下の成長が促され、大きな達成感を得ることができるのです。

つまり、上司は自分が口を出さなくていい適切な難易度の目標を設定できるかが重要であり、それこそが目標設定スキルなのです。

まとめ

目標設定スキルが向上することによって、本当の意味での、二律背反することのない働き方改革が促進されるのです。

マネジメントに悩んでいる管理職の皆様、是非、目標設定を見直すことことから始めてみてはどうでしょうか。

後藤 翔太 株式会社識学 コンサルタント。たったの2名。それも、当時は素人の選手しかいなかった女子7人制ラグビー部のヘッドコーチに就任し、わずか2年数ヶ月でチームを日本一へと導いた実績を持つ。桐蔭学園高校、早稲田大学というラグビーの名門校を経て、2005年にジャパンラグビートップリーグの「神戸製鋼コベルコスティーラーズ」に入団。1年目からレギュラーの座を勝ち取り新人王に。その後、日本代表にも選出され、常にラグビー界の最前線を走り続けてきた選手である。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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