KDDIの携帯電話販売店(携帯ショップ)、auショップの来店予約システムで「新規ご契約」「他社からお乗りかえ」を選択すると多くの時間枠で「予約可」となるのに対し、「解約」「au―UQ変更」「機種変更」を選択すると「予約可」の時間枠が大幅に減ることが議論を呼んでいる。KDDIは取材に対し「システム仕様としては、過去の対応時間などをもとに応対時間を考慮」と説明するが、解約や低価格のUQへの契約変更を防ごうという意図はあるのか。また、背景には何があるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
auショップに限らず携帯ショップをめぐる問題は以前から指摘されてきた。典型的な例としては、高齢者が不必要に多くのオプションサービスを契約させられ、毎月多額の料金を請求されるという問題だ。2019年、元NTTドコモ執行役員で現KADOKAWA社長の夏野剛氏は、高齢の母親がドコモショップで契約した内容を確認したところ、「dアニメストア」「dマガジン」、ランニングや筋トレをサポートする「Runtastic for docomo」、幼児・子ども向けの知育ゲームアプリ「dキッズ」など大量のオプションサービスに加入させられていたとSNS上に投稿し、大きく注目された。
端末購入や機種変更の際に位置づけが不明瞭な「頭金」を請求されるという事例も一時、問題となった。店舗で頭金を要求された顧客が、頭金が発生しないインターネット申し込みをする旨を伝えて退店しようとすると、店舗スタッフから大幅や減額や無料化を提案されるというケースが続出。国民生活センターなどに、頭金を支払ったものの割賦総額からその分の金額が減額されていないといった苦情が相次いだこともあり、20年には総務省と消費者庁が携帯キャリア各社と販売代理店に是正を求める事態に至った。
このほか、回線契約を伴わない端末のみの販売を拒否するという行為や、人気機種のiPhone端末の購入を希望する顧客に対し、回線契約を条件に2万円の上限を超える事実上の値引き(=利益提供の提示)を提案するという行為も広く行われてきた。
こうした事態を国も問題視しており、総務省は22年、携帯ショップに関する覆面調査の結果を公表。調査件数531件のうち違反が40件、違反の疑われる事例が12件となった。
携帯ショップの厳しい経営環境
背景には、携帯ショップの厳しい経営環境がある。大手キャリア関係者はいう。
「携帯ショップの大半は販売代理店会社が運営するもので、キャリアとは別会社なので、本来であれば対等な関係であるべきだが、携帯ショップの経営はユーザの新規契約や契約更新に応じてキャリアから受け取る手数料とインセンティブ(販売奨励金)で成り立っているため、キャリアに生存権を握られている。キャリア各社は数年前から低コストで運用できるオンライン専用プランの拡販に力を入れており、ユーザ側もそれを望むようになった。コロナによる外出自粛も重なり2020年頃から携帯ショップの来店者数は大幅に減り、キャリア各社は携帯ショップへの評価制度の変更などを通じて事実上の手数料・インセンティブの減額に乗り出し、低い評価をつけることで店舗の運営ができないレベルまでインセンティブを減らして閉鎖に追い込むというようなことまで行われている。その結果、携帯ショップ運営会社は大手も含めて経営が苦しくなっている」(24年10月2日付当サイト記事より)
運営コストの低いオンライン契約の普及に伴い、キャリア各社は販売チャネルとしての携帯ショップへの依存を薄めつつある。NTTドコモは19年、全国のドコモショップで無料だった各種サービスを有料化。24年~26年3月期に全体の3割にあたる約700店を閉鎖する方針を掲げている。au(KDDI)とソフトバンクの店舗も年々減少しており、移動体通信・IT分野専門の調査会社・MCAが公表した調査結果によれば、携帯ショップ全体の店舗数は23年8月~24年2月の半年間で235店減少し、7339店舗になったという。
その一方でキャリア各社が力を入れているのがオンライン専用プランだ。ドコモは「ahamo」「irumo」「eximo」を、auは「povo(ポヴォ)2.0」を、ソフトバンクは「LINEMO」を展開しており、他のプランより割安な料金体系を設定して注力している。20年から本格サービス開始した楽天モバイルは当初から手続きがオンラインで完結できる設計となっている。