現在、グローバリゼーションの名の下で進められているモノ、カネ、人の国境を越えた移動や交流は経済的な格差の拡大やそれに伴う民族、人種間の対立を生み出しつつある。

経済発展と手を携えて進行する科学技術・テクノロジーの進展はそれまでの人間の生活のあり方を変容させつつある。例えば、政府が国民の求めている情報を隠蔽し、行政が関係文書や資料を隠匿・改竄する事件が頻発している。民間企業でも顧客や消費者に同様のことが日常的に行われている。

全体主義国家「中国」の悲劇

中華人民共和国の歴史を振り返れば、革命当初、相次ぐ戦乱と貧困に喘いでいた大衆は中国共産党が作り上げた「平等と繁栄」という虚構の中に逃げ込み、ブルジョア階級を倒せば夢の世界がやってくると信じていた。だが、ブルジョア階級の手先となっていたのもまた大衆であり、大衆同士の虐殺と私刑が各地で繰り広げられた。

革命が成就した後、それまでのブルジョアが共産党に代わっただけで、大衆が置かれた環境は一向に変わらなかった。中国共産党は毛沢東理論を繰り返すことで大衆を洗脳し続け、いつか大衆が夢見る世界が来ることを信じさせてきた。

だが、今の中国は少子高齢化や経済成長の鈍化により、「社会性報復」と「閉塞感」に満ちた社会に陥った。その原因には75年にわたる中国共産党の独裁制による自由抑圧、言論統制、人権弾圧があると考えるべきだろう。

【参考資料】

牧野雅彦『今を生きる思想 ハンナ・アーレント 全体主義という悪夢』(2022年、講談社現代新書) 「中国、止まらぬ『社会性報復』習政権が恐れる批判の矛先」桃井裕理(2024.11.13、日経新聞 「『不安』と『不信』が渦巻く現代社会で、『ハンナ・アーレントの思想』が必要とされる理由」(2023.2.3、現代ビジネス)

藤谷 昌敏 1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学客員教授(危機管理論)。主要著書(共著)に『第3世代のサービスイノベーション』(社会評論社)、論文に「我が国に対するインテリジェンス活動にどう対応するのか」(本誌『季報』Vol.78-83に連載)がある。