基底細胞母斑症候群の原因遺伝子PTCH1はヘッジホッグシグナルと呼ばれる細胞増殖伝達経路に関与する遺伝子であり、彼女はこの経路を抑える阻害剤の臨床開発を行った。話を聞いていてさまざまな紆余曲折があったと想像された。いろいろな副作用がありそうだが、研究者も、それを支えるベンチャーも立派だが、それを支え続ける国や患者の支援も日本では難しい。

さらに彼女は表皮水疱症の治療法開発にも取り組んでいる。

表皮水疱症、遺伝子治療用ジェルを皮膚に塗布する臨床試験で治療効果を確認 – 遺伝性疾患プラス (qlife.jp)

皮膚は表皮が基底膜で真皮とつながる複数層の構造となっているが、表皮と真皮との接着が弱いために、少しの力で表皮が真皮から剥がれて水ぶくれができる。この病気の原因遺伝子として複数の遺伝子(ケラチンやコラーゲン遺伝子など)が知られているが、このうち、7型コラーゲン遺伝子に異常がある患者の皮膚細胞を体外で培養して正常7型コラーゲン遺伝子を導入し、患者に戻す治療法が彼女によって紹介された。

全身の皮膚が同じような状態だし、短期間の効果しかなく、完全に治癒できる訳でもないが、難治性の病気の克服に必死で取り組んいる医師や研究者がいるだけで患者さんの励みになるそうだ。

私は患者の顔が浮かばないような医学研究者は必要ないと思っている。そこが生物学研究と医学研究の違いだ。しかし、研究を補助する技術員が少なく、働き方改革と叫ばれているなかで、サービス残業でしか研究に時間が割けない。

これからの日本の医学研究をどうしたいのか、霞が関にも永田町にも青写真がない。「子供が3人いれば大学授業料無償化」など愚策の象徴だ。国から背骨がなくなり、軟体動物化しつつある。

編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年12月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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