しかも、世界の頭脳を象徴する自然科学分野のノーベル賞受賞者もアメリカとイギリスが際立つ(表3参照)。ノーベル賞が始まってから2022年までのアメリカの総受賞者数は、275人で、他の4カ国を合わせた総数の218人を大きく上回る。
世界最高峰の頭脳をこれほど擁するにもかかわらず、その子どもたちの学力といえば、何ともお寒い限りだ。このギャップ、不思議にみえる。だが、少し考えてみると、不思議でも何でもない。まず、教育の格差である。お金持ちの子ども、あるいは非常に優秀な子どもは、学費も教育レベルも高い私立校に、それ以外の子どもは公立校に通う。
アメリカの小学校から高校までの「K 12」と呼ばれる教育課程において、私立に通う子どもは全体の9%(National Center for Education Statistics)、イギリスが5.6%(Private Education Policy Forum)と言われている。
では、教育レベルはどうか。学力は両国とも私立のほうが高い(e.g. U.S. News; The Guardian, 20/08/2023)。私立教育が充実すると、公立の教育は疎かになりがちで、全体的な教育レベルは下がる。子ども全体の学力は低くても、少数先鋭のエリート層を育てようというわけだ。
次に、大学/大学院における国際化の著しい進展である。先の大学ランキングでは評価項目の一つに外国人の学生や学術スタッフの割合があり、トップ10の大学はいずれもこの項目でも高得点を挙げている。
ランク1位のオックスフォード大学の場合、学部生の23%、大学院生にいたっては65%が留学生であった(Oxford University, Facts and Figures)。2位のスタンフォード大学は、学部14 %(Stanford Facts, Undergraduate Student Profile)、大学院35%とやや少ない(Stanford Facts, Graduate Student Profile)。
いずれにしても、英米の有名大学では世界中から優秀な学生、とりわけ大学院生を集めて、研究力を高め、世界をリードする成果を生み出しているのである。
このような少数精鋭主義や世界中から優秀な人材を集めるのも、国家戦略としての教育のあり方の一つかもしれない。
しかし、子どもたちに等しくより良い教育を提供し、国民一人ひとりの知性を底上げすることは、国家の安定性、そして何よりも人権、自由や民主主義といった普遍的価値の共有にとって、それ以上に重要ではないだろうか。イギリスの欧州連合離脱やアメリカのトランプ政権の登場は、国民全体の教育レベルと無縁とは思われない。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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