IAEAと北朝鮮の間で核保障措置協定が締結されたのは1992年1月30日だ。1994年、米朝核合意が実現したが、ウラン濃縮開発疑惑が浮上し、北は2002年12月、IAEA査察員を国外退去させ、翌年、核拡散防止条約(NPT)とIAEAから脱退。06年、6カ国協議の共同合意に基づいて、北の核施設への「初期段階の措置」が承認され、IAEAは再び北朝鮮の核施設の監視を再開したが、北は09年4月、IAEA査察官を国外追放。それ以降、IAEAは過去15年間、北の核関連施設へのアクセスを完全に失い、現在に至っている。そして今、専門家パネルが廃止されれば、北朝鮮はもはや監視を恐れなく核開発に専心できる。そのうえ、ロシアという願ってもない核大国から技術支援も期待できるわけだ。
ウクライナのクレバ外相はユーモアと少しの皮肉を込めて、「ロシアとウクライナ戦争の行方はここにきて北朝鮮が握っている」と発言した。関係者にとっては想定外の展開だからだ(「ウクライナ戦争の行方を握る北朝鮮」2024年1月26日参考)。
ロシアと北朝鮮の関係強化は、もはや世界的な脅威となってきている。ロシアの拒否権は、ロシアと北朝鮮の緊密な関係の証明だ。北朝鮮の拡散の執拗な追求は、朝鮮半島、東南アジア、ヨーロッパを含む世界全体に脅威をもたらす。
プーチン大統領と金正恩総書記は昨年9月、首脳会談で両国間の軍事協力の強化などで合意した。その最初の成果は北朝鮮の軍事偵察衛星「万里鏡1号」の打ち上げ成功だろう。過去2回、打ち上げに失敗してきた北朝鮮はロシアから偵察衛星関連技術の支援を受け、昨年11月21日の3回目の打ち上げに成功した。北側は今後、数基の偵察衛星を打ち上げる予定だ。
ロシアの今回の決定は、常任理事国としての責任を濫用した無責任なものだ。ウクライナの戦争で証明されているように、ロシアはすでに自らの利益のために一貫して国際的な規範や秩序を侵害している。ちなみに、ロシアのペスコフ大統領報道官は29日、国連安保理で対北朝鮮制裁に関する専門家パネルの任期延長決議案にロシアが拒否権を行使したことについて、「この立場の方がわれわれの利益に合致する」と述べた。タス通信が伝えた。
一方、日本外務省は3月28日、「安保理において、米国提案の国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネルのマンデートに関する安保理決議案が、ロシアの拒否権行使により否決されたことは遺憾だ。北朝鮮が核・ミサイル活動と安保理決議違反を繰り返す中、国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネルは、2009年の設置以来、毎年全会一致でマンデートを延長し、その調査活動を通じて、北朝鮮による制裁回避活動に関する情報を提供する等、関連安保理決議の実効性を向上させるための重要な役割を果たしてきた」という内容の外務報道官談話を発表している。
なお、古川勝久・北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員は先月29日、時事通信に対し、「専門家パネルがなくなれば、制裁違反の調査や監視の機能が国連から事実上消える。対北朝鮮制裁が形骸化しかねず、パネルの機能を継続する多国籍組織を有志連合でつくる必要がある」と述べ、有志連合での代替組織設置を提案している。具体的には、北朝鮮のロシア急傾斜を懸念する中国に呼びかけ、ロシアと北朝鮮の危険な軍事協力に圧力をかけ、北朝鮮の核・ミサイルの監視を継続していくという考えだ(「中国『金正恩氏のロシアへの傾斜』懸念」2024年03月26日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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