経済学から政治経済学になった時代

バイデン米大統領は、日本製鉄によるUSスチールの買収計画に対する中止命令を出しました。不満の日本側は法廷闘争も選択肢に含まれると言い、引き続き闘うつもりのようです。

米株式市場では、USスチール株が急落し、「再建困難」で、製鉄所の閉鎖、本社移転が不可避とか言われています。「米国内で所有・運営される強固な鉄鋼産業が不可欠」(バイデン氏)と言った手前、どうするのでしょうか。政府の支援を受けながら、他の売却先をさがすのでしょうか。「米国の歴史的なシンボル」を買収して再建するという夢が破れ、ほっとする日がくるような気がしてなりません。

民間投資をアピールするバイデン大統領 ホワイトハウスインスタグラムより

大統領選におけるバイデン氏とトランプ氏の大統領選での闘いが示すように、経済問題は「経済学」や「経済理論」ではなく、「政治経済学」の時代に変わってきています。今回、日本側は「経済学」、米側は「政治経済学」の立場に立っていました。

「経済学より政治経済学」という変化は大統領選に最中から明確になり、トランプ氏が当選してからさらに露骨になってきました。経済合理性よりも、国家安全保障上の価値が上位に位置する。そうした米国政治の変化に鈍感だったのは、日本を代表するトップの鉄鋼メーカー(世界4位)の経営陣です。なんと大統領選直前の23年12月に買収計画を発表したため、買収計画が一気に政治問題化し、政争の具になってしまいました。

日本製鉄はなんでこのような時期に政争化しやすい案件を持ち出したのか。USスチールは世界27位に後退し、業績悪化で経営陣は日本製鉄に救いの手を求めたのでしょう。日鉄は騒動にならないと踏んでいたのか、経営トップは「年内(24年末)には買収は完了する」と、楽観的でした。最悪のタイミングで買収計画を公表することを避けていたならば、道はひらけていたのかもしれない。