SPDのサスキア・エスケン党首は「我々の民主主義は強固であり、買収されることはない。民主主義を否定し、人権を蔑視するAfDを支援する者は、ロシアからの国家的な影響であろうと、マスク氏ら億万長者仲間の影響であろうと、我々の厳しい抵抗に直面するだろう」と警告しているほどだ。

一方、マスク氏の寄稿を掲載した「Welt am Sonntag」の次期編集長ヤン・フィリップ・ブルガード氏はマスク氏の主張に反論し、「AfDのEU懐疑論が輸出国であるドイツにとって大惨事になる」と指摘、「ロシアや中国への迎合、アメリカやEUへの反対というAfDの立場は、ドイツの最後の希望ではなく、価値観と経済に対する脅威である」と述べている。ちなみに、「Welt」意見欄の責任者エヴァ・マリー・コーゲル氏は「マスク氏の寄稿を掲載させた」ことの責任から辞表を提出している。ちなみに、ドイツジャーナリスト協会(DJV)は「ジャーナリズムの名を借りた極右政党への選挙広告は、許されるべきではない。ドイツのメディアは、独裁者やその友人たちの道具として使われるべきではない」と警鐘を鳴らしている。

マスク氏は、トランプ新政権の親密な顧問であり、新設の「政府効率化省」で政府支出削減案の策定を任されている。また、最近では英国政治にも介入し、右派ポピュリスト政党「Reform UK」を支持する意向を示している。マスク氏の政治発言が至る所で物議を醸し出しているのだ。

ところで、なぜマスク氏はドイツや英国で極右政党を支持するのだろうか。マスク氏は既存の政治体制や規制に対する批判を繰り返してきた。例えば、テスラの工場建設に関する認可の遅れや、気候政策、エネルギー政策への不満を表明してきた。極右政党は「現状打破」や「既存のエリートに対する挑戦」を掲げており、マスク氏の自由主義的で規制を嫌う姿勢と一致する部分がある。マスク氏はまた、極右政党が掲げる移民制限や反グリーン政策に共感している。それだけではない。マスク氏は物議を醸す発言や行動で注目を集め、これを自身のブランドやビジネスに活用するなど、挑発的なマーケテイングを行っている。ただし、マスク氏の発言はテスラやスペースXの評判を損ない、政治的な信頼の低下=パートナーからの信頼損失などが生じる可能性も排除できない。