今回の検証は「多角的レビュー」との表題がついています。本当に「多角的」なのでしょうか。異次元金融緩和・財政膨張政策をとっているうちに、日本経済の国際ランキング(国民総生産=GDP)がどんどん下がったことに言及していません。言及すると、「アベノミクスは失敗だった」と認めることになる。それが嫌だったのでしょう。
日本の国際ランキングは3位から4位に落ち、1人当たりGDPでみると、先進7か国で最下位、韓国にも抜かれ22位まで落ちました。円安が大きな原因とされています。安倍氏の死後、その業績を賞賛するような回顧録の類が多数、出版されています。かれらもそのことに触れていません。
財政問題について、レビューは「金融政策の目的はあくまで物価の安定で、財政ファイナンス(国債購入)が目的でないことを明確に示していくことが重要だった」としています。「明確に示さなかったから財政ファイナンスに流れていった」と言いたいのでしょう。日銀としては「政治的圧力による財政ファイナンスに抵抗できなかった」とまでは言わない。
「2年で消費者物価2%上昇という当初の目標が、いつの間にか円安誘導と大量の国債購入(財政ファイナンス)にすり替わってしまった」と指摘があちこちから聞こえてきます。
最近は、政府、日銀の本音は「消費者物価が上がると、消費者が負担する消費税収が増える。物価が上がると見かけの売上が増え、企業収益が膨張し、法人税収が増える。財政赤字が大きいので、円安は都合がよい」にすり替わっていると思います。この現象はインフレ税と呼ばれます。
「デフレ脱却」のつもりがインフレ税にすり替わってしまった。新聞社説は「拙速な利上げは論外だ」、「市場の動揺は避けるべきだ」と異口同音に主張しています。はっきり言うべきことは、「アベノミクスの目的が二転三転し、どんどんすり替わっていった」ことを批判すべきなのです。
最後に、日銀には通貨価値の安定という義務があります。通貨価値の安定には、国内的価値、対外的価値の安定が必要です。2%を超える物価上昇はもう2年5か月になり、国内的価値の下落が続いています。対外的価値を対ドルレートでみると、1㌦=160円弱まで下がり、購買力平価でみると、30年前、40年前のレベルに落ちています。日銀は対外的価値の下落にもっと目を向けるべきです。