12月11日から13日にかけて東京・渋谷で開催された「2024 TRON Symposium -TRONSHOW-『AI XTRON』」。最終日となる13日に開催されたセッション「2030年の電脳集合住宅──API時代の新しい暮らし方」に参加してきました。
セッションには独立行政法人都市再生機構の小塚郁武氏と、INIAD cHUB(東洋大学情報連携学 学術実業連携機構)の坂村健氏が登壇し、2019年から実施している「Open Smart UR研究会」での取り組みや展望についてうかがいました。
■ 1989年に生み出された「TRON電脳住宅」は現在の“スマートハウス”の始まり
TRONとはコンピュータや電子機器の中で動くソフトウェアの基本的な仕組みを提供するオペレーティングシステム(OS)の1つ。
INIAD機構長および東京大学名誉教授である坂村氏が1984年にプロジェクトをスタートさせ、40年をかけて少しずつ研究を進め、シェアを拡大しています。
家電機器、産業ロボットなど様々な機械・デバイス・システムが効率よく連携し動作するための基盤となっているTRON。これを利用し、住宅を構成するあらゆるシステム(キッチン、バス、トイレなど)をネットワークで連携動作することを可能にしたのが「TRON電脳住宅」です。
現在における“スマートハウス”の始まりとして生み出された「TRON電脳住宅」は、1989年の竣工以来、技術の進化とともに発展してきました。
2019年にはURとINIADが、2030年の近未来の住まい方に関する研究会「Open Smart UR研究会」を立ち上げ、「魅力的なまちづくり」、「多様な住まい方」、「安心して暮らせる環境」の実現のため、技術的な検証や環境整備を行っています。
■ 「Open Smart UR研究会」が考える2030年の住まいとは?キーワードは「OPEN」
セッションではまず、坂村氏と小塚氏から「Open Smart UR研究会」のこれまでの取り組みについての共有から始まりました。
「Open Smart UR研究会」が2030年の住まい方のコンセプトとしているのが、「HaaS」という発想。HaaSとはHousing as a Serviceの略で、住むということを「物理的な住宅=ハードウェア」ではなく「住むための機能=ソフトウェアサービス」を中心に考えることを指します。
2022年には、そんな「HaaS」コンセプトの一部を実現した住宅「Open Smart UR 生活モニタリング住戸」が、東京都北区赤羽台に作られています。ここでは実験に同意した関係者が実際に生活。2030年の実用化を想定して、さまざまなデータを取得しながら実験が行われています。
また、Open Smart URがキーとしているのが「OPEN(=連携)」というワード。オープンな環境やデータを整備することが多くの利用者の獲得に繋がり、多くの利用者は新たな連携を生み、新たな連携がイノベーションを起こすと言います。
例えばさまざまな企業が手掛ける規格の違うシステム・デバイスに対し、オープンな標準APIを提供することで、住戸で統一されたOS(ハウジングOS)に繋ぐことができます。それにより家具・設備同士が連携を実現することができるというわけです。
連携はデバイス同士だけでなく、データ同士でも。前述の「Open Smart UR 生活モニタリング住戸」内には100個以上のセンサーが取り付けられています。センサーによって取得したデータとAIの活用によって事故やトラブルを予測し、未然に対処することで、より快適な暮らしが実現できるそうです。
常に100個のセンサーが取り付けられている環境において、1つ大きな懸念になるのが住人のプライバシー。データ連携による便利な暮らしとプライバシーの問題を両立させるには「プライバシーなデータ」と「プライバシーではないデータ」の線引きが必要です。
その線引きをし、センサーの最低数を知る意味で、実験段階の現在は100個という大量のセンサーが取り付けられているそうです。
住戸では上述の生活データのほか、公共交通機関の情報など、住戸外とのデータ連携も整備されています。
さらに坂村氏は地域住人同士の連携にも注目しています。
「(多くの場合)1人で住むって人はいないです。大抵はエリアに住んでいるので、そこの人と連携協力っていうのは非常に重要になりますし、生活するためには色々な経済活動も行わなきゃいけない」(坂村氏)。
住民同士のつながりという観点から、「Open Smart UR 生活モニタリング住戸」はこのほど、所在地である北区や赤羽台との地域連携実験を開始したとのこと。
地域の商店街や個人事業主と住戸をつなげる、江戸時代の「御用聞き」を現代流にアレンジしたシステムを考案し、実験しています。
そのほか、デジタルサイネージを用いた地域連携も実験中。これまで団地内に紙で張り出していた地域の情報などをサイネージ化することで、運用のスリム化が図れるほか、特定の管理者を置くことがないというメリットも。
情報発信元となる役所や公共交通機関が、共通のガイドライン・ルールにしたがってクラウド上に情報をアップすることで、コストの削減にも繋がります。さらに紙では得られない「情報を見ている人の情報」を取得できるようにもなるようです。
ただし地域との情報連携はまだ構築したばかり。具体的な動きは今後進められていくとのことです。