1999年3月7日、米バージニア州ワシントンで化学者のシドニー・ゴットリーブ(当時80)が死亡した。

 ゴットリーブは中央情報局(CIA)に勤務し、人心をコントロールする方法を開発する目的でさまざまな薬物を用いた人体実験を繰り返した。冷戦時代にフィデル・カストロを殺害するための毒物をCIAに提供したとされる。

薬物とセックスの関係性を調査する実験

 味方からも敵から「天才」として一目置かれていたゴットリーブは、LSD(幻覚剤)をCIAに持ち込んだ男として知られる。

 1950年代~1960年代初頭にかけて、CIAは人間の意識をコントロールする可能性を探るため、精神に影響を与える薬物を何百人ものアメリカ人に使用した。モルモット扱いされたのは、精神病患者、囚人、麻薬中毒者、売春婦など、抵抗できない人々が多かった。あるケースでは、ケンタッキー州の精神病患者が174日間連続してLSDを投与されたと報告される。

 このような人体実験の一つとして「ミッドナイトクライマックス作戦」が有名である。1954年にゴットリーブによって開始された同作戦では、CIAの資金提供の下、カリフォルニア州サンフランシスコの売春宿を舞台に、何も知らない一般市民の男性を対象とした薬物実験が行われた。薬物とセックスの関係性を調査するのが目的だったとされ、作戦の成果は10年間にわたってCIAのLSD研究を後押しする役割を担ったという。