JR東日本が民営化後としては初めて全面的に鉄道運賃を改定する。同社は今月、2026年3月に運賃を平均で約7%引き上げると発表した。通勤定期は平均12%という2ケタの大幅な値上げとなるが、人口減少やリモートワーク普及による乗客数の減少という大きな社会的変化もあることから、値上げは今回だけでは終わらないという見方もある。また、たとえば山手線の初乗り運賃は長きにわたり150円のままだったが、原材料費やエネルギーコスト、人件費の高騰が続いており、同社鉄道の運賃はこれまでが安すぎたという声もある。今回の値上げ幅をどう評価すべきか。そして値上げは今後も重ねられるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
JR東日本は消費増税時などを除いて、1987年の民営化以来、全面的な値上げは行ってこなかった。コロナ禍によって通勤利用客が減るという大きな変化を受け、経営が苦しくなった私鉄各社が先行して値上げに動くなか、JR東日本も追随する。
JR東日本は需要減を見越してコスト削減の施策を進めてきた。2022年には、利用者の少ない路線・区間の情報を公開し、35路線66区間について「持続可能な交通体系について建設的な議論」を進める考えがあることを表明。今年7月には23年度における新幹線と在来線の1キロ当たりの1日平均乗客数「輸送密度」を公表し、30路線53区が、政府が存廃検討の目安にしている1000人未満であることを提示。一部の区間ではすでに廃線の議論に入っている。このほか、21年には「みどりの窓口」を25年までに約7割削減する方針を発表。21年時点で440駅にあった「みどりの窓口」を約140駅まで減らす計画だったが、削減の影響で混雑が問題となり、今年5月には計画の凍結を余儀なくされた。
真っ先に手を付けなくてはならないのは通勤定期運賃
そうしたなか、同社は普通運賃を約8%、通勤定期を約12%、通学定期を約5%値上げ(平均)することを今月、国土交通相に申請した。国に認可されれば、26年から値上げ後の運賃が適用される。今回の値上げ幅は、どう理解・評価すべきか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏はいう。
「今回JR東日本が申請した運賃の改定幅を同社に確認しましたところ、国土交通大臣が認可する運賃の上限いっぱいであったとのことです。JR旅客会社6社の運賃は、電気料金のように鉄道会社どうしでコスト競争を行った結果、コスト削減に成功した会社にのみ運賃改定のインセンティブが与えられる総括原価方式が採り入れられています。
本来であればJR東日本が運賃改定に当たって真っ先に手を付けなくてはならないのは、通勤定期運賃です。割引率が大人1カ月、10km乗車時で約48パーセントと、大手私鉄が30パーセント台であるのと比べると非常に大きく、また筆者(梅原淳)の試算では通勤定期運賃部門の収支は恐らく赤字で、2019年度には同社は約4174億円の欠損であったと考えられます。ところが、通勤定期運賃の割引率に手を付けようとすると総括原価方式の制度上、通学定期運賃にも手を付けなくてはならず、反発も予想されることから見送られたと聞きました。その代わりに、通勤定期運賃算出の基礎となる普通運賃、特に割安であった山手線内や電車特定区間の普通運賃を改定することで収支の改善をもたらすものと期待されます」