キッシンググラミーの仲間には、「ドワーフグラミー」「チョコレートグラミー」などグラミーと名の付く魚が多数存在しますが、それらの魚が上向きの口を持っているのに対し、キッシンググラミーは前向きの口を持っています。
その口は前に長く突き出すことができるため、魚同士でキスをするのにぴったりです。
またアメリカ・アリゾナ州立大学(ASU)の2012年の研究では、キッシンググラミーの顎に存在する「追加の関節」に焦点を当てており、この関節が顎を開く角度を大きくし、捕食の効率を高めていることが報告されています。
では、その特徴的な口で行う「キス」行動には、どんな意味があるのでしょうか。
魚同士のキスは「愛情表現の真逆」の行為だった!?
キッシンググラミーでは、その名前の元になった「キス」のような行動が見られます。
2匹の個体が口を近づけ、数秒間押し合うのです。
これは人間のキスとは大きく異なります。
キッシンググラミーたちは、愛情表現ではなく、闘争行為としてこれを行うのです。
しかし、口で相手を傷つけたり、攻撃したりしているわけではありません。
専門家たちの中では、「儀式化された闘争行為」だと考えられています。
いわば「口を使った力比べ」によってどちらが強いかを示し合い、互いに傷つけることなく、グループ内での地位を明確にしたり、縄張り争いしたりしているのです。
実際、キッシンググラミーがキスをしている時には、顎の筋肉の収縮が見られており、「力比べ」という表現は妥当です。
キッシンググラミーたちは、人間が腕相撲で優劣をつけるかのように、その発達した口で優劣を決めていたのです。
とはいえ、その傷つけない勝負「キス」が見られる環境では、キッシンググラミーが死に追いやられるケースもあるようです。