従来の防衛の概念で受け身に立っていれば、致死性や破壊力の高い先制攻撃によって、瞬時に回復不能なまでの損害を受ける、そんな攻撃を防ぐためには敵の動きを察知しての予防攻撃も必要になり、攻撃と防衛の区分が曖昧となる―ケーガン所長の警告はこんな趣旨なのである。

だから日本の専守防衛はもう実際に近代戦争では概念としてだけでも骨抜きになってしまった、ということだろう。

日本が「専守防衛」の原則に下に現代の先端兵器、つまりAI、電子戦争、レーザー攻撃、サイバー戦争、電磁波作戦などを装備しても、それらはもう年来の防衛と攻撃という線引きでは区別できない、ということでもあろう。

ケーガン所長はウクライナ戦争の現状と展望については、以下の骨子を語った。

ロシアはウクライナの完全制覇だけでなくNATO(北大西洋条約機構)の価値、さらにアメリカ主導の国際秩序や同盟関係の破壊を目指す点で日本の安全保障にも害を及ぼす

プーチン大統領はまだ当初の戦争目的を達成しておらず、現状では停戦交渉には応じないだろう

ロシア軍は一定の地域の占拠には成功しても、毎月30,000人以上の死傷者を出している

ウクライナは年間150万機の無人機を自力で製造し戦場に送ったが、なお十分ではない

ロシアを停戦交渉に応じさせるには、戦場での損害をさらに多くさせることが効果的だ

なおISWのキンバリー・ケーガン所長の発言全体の詳細は以下のようだった。

ウクライナ戦争はロシアという核兵器保有の大国がウクライナという独立国の主権を奪い、その背後にいるNATOの価値を否定し、さらにアメリカ主導の国際秩序を破壊しようとする点で国際情勢全体を変えようとする大変革の動きだ。

ロシアのこの野望に中国、イラン、北朝鮮という諸国が程度の差はあれ、同調し、アメリカとその同盟国、有志国を敵視し、その絆を断とうとしている。この点でウクライナ戦争のアジア太平洋地域への影響は重大だといえる。

とくに中国はロシアと反米基調を一体として、アジアでの覇権から国際秩序の改変までを目指している。その一環として台湾の武力制圧をも国家目標としており、その点で日本への軍事脅威も現実的だといえる。

ウクライナの戦闘は双方が無人機、AI(人工知能)、電子戦争、サイバー攻撃など新型技術を導入した新兵器の広範な使用で致死性、つまり殺傷能力や攻撃性が画期的に高まった。このため従来の防御型の安全保障態勢は弱体となった。

日本もアメリカの軍事力を自国の防衛に取り込む同盟国だが、中国がウクライナ戦で登場した殺傷性や攻撃性の高い新型兵器を使うことを予測すると、従来の専守防衛的な安保体制は抑止力となりえなくなる。

ウクライナ戦争の停戦や講和の展望は今、プーチン大統領が当初の目的を全く達していない現状では極めて難しい。ウクライナの完全占領というその目的は国際的には受け入れ難い。だからロシアを停戦に応じさせるには戦場でのロシア側の損害を一定以上に増すことが現実策だ。

ロシアはウクライナでの戦闘で毎月平均30,000から35,000人の死傷者を出している。プーチン大統領はそのほぼ同数の将兵を毎月、ロシア国内の非公式の徴兵で補充しようとしている。その補充が困難になった場合が一つの転機となり得る。