以前、ご紹介したようにカナダでは所得がある人は全員確定申告が義務付けられています。昔は手で計算し、申告書に手書きして提出していました。出来ない人や複雑な人は街中にあるそのようなサービスをするところに行ってやってもらいます。今は企業や金融機関が提出済みの源泉徴収や金利収入情報などを税務当局と税務当局推奨の無料の会計ソフトがデータをリンクさせることでほぼ自動化しています。自分で会計ソフトを立ち上げ、税務当局とデータのリンクを許可する、とすればたちまち収入は自動入力されるのです。かつては街中に「タックスリターン」の看板を掲げていた個人事業主も多かったのですが、今では見ることはありません。

今後、世の中がどういう風に進化していくかは予想し難いものがあります。ただ、少なくともいえるのはデジタルの社会への浸透は着実に進み、起業のハードルは徐々に高くなるとみています。その中で私が思うのはデジタルが浸透しにくい分野、デジタル疲れを癒す分野などいわゆるローテクというか、昭和の時代から存在するごく普通のビジネスに再度光が当たることもあると考えています。

例えば介護はデジタルが浸透しにくい分野です。デジタルがアシストすることはあってもデジタルに凌駕されることは当面ないでしょう。学校教育はデジタル化すべき分野ですが、先生がコミュニケーションや討議、道徳、心のケアといった分野に集中する時代がやってくると思います。クラブ活動はむしろマストで参加させ、人と人の繋がりを重視するようなメリハリが必要でしょう。

私は今、新規案件があり、それのフィージビリティに入っています。まだやるかどうかは決定していませんが、やればバンクーバーでは誰も手を付けていないし、真似もたやすくない分野です。しかし、テクノロジーとは無縁でもあります。それは「人」がテーマなのです。

私は抱えているビジネスが多岐にわたりますが、起業のアイディアがデジタルからは出てきそうにもありません。人間生活に於いて人間が欲していることは何か、ここに原点があるのです。人は嫌というほどデジタルに浸かっています。できればそこからは抜け出したいと思う人も多いはずなのです。

また10代、20代のデジタルネイティブの人たちがいくら増えたとしても人口比ではいまだアナログ派も多いのです。例えば本を買うのにアマゾンを眺めて選ぶ方もいるでしょう。しかし、多くの本マニアは書店で30分ぐらいかけてグルグル回り、発見することに喜びを感じるのです。つまり効率ではなく、紙の匂いに囲まれている瞬間の歓びなのです。これが感性というもの。ディズニーランドやUSJに長蛇の列を覚悟していくのも同じです。起業を考えるならそこを見落としてはいけないのです。

とすればデジタルネイティブの人たちには「スマホを置け。手ぶらで街に出て、触って感じて空気をつかめ」と申し上げたいと思います。全く違うフィーリングを得ることができると思います。

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年1月18日の記事より転載させていただきました。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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