約2年間、政治の空白状態となっていた英領北アイルランドで、2月3日から自治政府が活動を開始した。
いくつかの報道を見ていると、北アイルランドと南のアイルランド共和国との統一を目指すカトリック系政党シン・フェイン党の副党首ミッシェル・オニール氏が首相に就任したことが焦点だ。
これまで、自治政府のトップは北アイルランドが現在のまま英国に帰属することを求めるプロテスタント系政党の党首であったので、大きな変化だ。 補足すると、実は「首相」は一人ではない。自治政府のトップは2人で、今回は2人とも女性である。
一人の役職名は「第1首相(ファースト・ミニスター)」、もう一人は「副第1首相(デピュティ・ファースト・ミニスター)」。後者は「副」がつくから、前者の「下」なのかなという印象を与えるが、実は、2つの職の権限は全く同じだ。
2つの職の権限が同じであること自体が、北アイルランド自治政府の根幹となっている。
30年間にわたる闘争の末に1920年代初頭、アイルランド島南部は英国から独立していくが、北部の6州は独立せずに英国の一部であることを選択した。プロテスタントの国・英国同様、この6州ではプロテスタント系の住民が圧倒的だったからだ。南部はカトリック系住民が大多数だった。
南部はアイルランド共和国として発展していくが、北部は「大多数のプロテスタント、少数のカトリック」という構図があったため、カトリック住民にとっては生きにくい社会で、政治も治安体制もプロテスタント住民が事実上支配権を握っていた。
プロテスタント系住民とカトリック系住民の対立がそれぞれの民兵組織、英国本土から派遣された英軍も関わるようになって武装闘争に発展していくのは1960年代に入ってからだ。約3000人が犠牲となった。包括和平合意ができたのは、1998年。
これによって北アイルランド自治政府が発足したものの、宗派の異なる政治家に対する不信感が消えず、何度も政府は機能停止となった。
何度かの危機の後、2007年に発足した自治政府はプロテスタント強硬派の指導者イアン・ペイズリーが第1首相に、カトリック系民兵組織IRAと関係が深い政党シン・フェイン党のマーティン・マクギネスが副第1首相になった。
北アイルランド議会で最大の議席数を持つ政党が第1首相を出すことになっているが、当時、ペイズリーが率いる民主統一党(DUP)が第1党だった。