元連邦議会議長ヴォルフガング・ティエルゼ氏は「ターゲスシュピーゲル」の中で「もし3つの連邦州の憲法擁護庁がAfDを明らかに右翼過激派と分類すれば、国はAfDの禁止を検討する義務がある」と語っている。
AfDの支持率は全国的に上昇していることもあって、ことは緊急を要する。全国的に見て、AfDの支持率はほとんどの調査機関で20%を超えており、今年選挙が行われるチューリンゲン州、ザクセン州、ブランデンブルク州の3つの連邦州では30%を超えているのだ(「独極右党の躍進をストップできるか」2023年8月8日参考)。
禁止の根拠は基本法第21条の「自らの目標や支持者の行動に基づいて、自由民主主義の基本秩序を損なったり排除したり、ドイツ連邦共和国の存在を危険にさらしたりすることを目的とする政党は憲法に違反する」だ。連邦憲法裁判所はそれに基づいて政党が違憲であるかどうかを判断することになる
人権研究所による分析では、AfDのプログラムは国家的および民族的な人民概念に基づいており、「価値観の観点から人種差別的なカテゴリーに従って人々を区別しており、したがって人民という概念から逸脱している」という結論に達している。AfDで最も影響力のある人物の1人であるチューリンゲン州議長のビョルン・ヘッケ氏について、同研究所は「国家社会主義の言葉を彷彿とさせるレトリックを常用しており、国家社会主義に基づく専制政治を公然と狙っている」と指摘している。基本法は「ドイツ国籍を有する者はすべてドイツ人」と明記しているが、ヘッケ氏はそのようには考えていない。
禁止申請は連邦議会、連邦参議院、または連邦政府によって提出される必要がある。ポツダム会談の内容が報じられると、与党の社会民主党(SPD)のサスキア・エスケン党首はAfDの禁止をもはや排除すべきでないと強調している。
エスケン党首はntvの番組で「AfDは大きな危険をもたらしている。その政党に国が政党援助金を出して支援することは、民主主義にとって自ら墓穴を掘る恐れがある」と述べている。
一方、野党第1党CDUのフリードリヒ・メルツ党首は、ミュンヘナー・メルクール紙の中で、「SPD関係者は30%近くの支持を得ている政党を簡単に禁止できると本気で信じているのだろうか。現実から必死に目を逸らそうとしているだけだ」と指摘している。
AfD禁止に躊躇する側には、「国民の支持を得ている政党を禁止させることができるか」という問いかけと、「AfDがプロパガンダの目的で禁止令を悪用し、自らを被害者であるかのように振舞うだろう」という懸念があるわけだ。
ドイツでは、AfDの禁止問題は、「もしNSDAP(国民社会主義ドイツ労働者党=ナチス)が禁止されていたらヒトラーの台頭は防ぐことができたのではないか」といった歴史的懺悔とリンクされる傾向が強い。それに対し、元憲法判事リュッベ=ヴォルフ氏は「NSDAPは1923年のヒトラー一揆後に一時的に禁止されたが、ヒトラーの台頭を防ぐことが出来なかった。法的力が不足していたのではなく、この党を阻止するという政治的意志が欠けていたからだ」と指摘している。AfDの禁止論は、民主主義の根本原則にも接触する問題を含んでいるだけに、政治家だけではなく、国民も意見が分かれているのが現状だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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