治療 原因とされた腎毒性物質を除去すること以外に、特異的な治療法はない。

中高年でFanconi症候群と診断した時に最初にするべきことは、原因薬剤を見極めることなのです。 ある時期よりFanconi症候群発症者が急増して、すべての発症者が紅麹コレステヘルプを内服しているのであれば、それが原因薬剤ではないかと推測することは必定です。原因薬剤が紅麹コレステヘルプである可能性が高いわけですから、厚労省の迅速な対応は適切です。

次に、コロナワクチンの腎障害について考えてみます。

2024年5月14日公表分までで、腎機能障害は117件救済認定されています。様々な腎機能障害が認定されていますが、比較的多いものは、IgA腎症が42件、ネフローゼ症候群が33件でした。

IgA腎症についてMSDマニュアルより引用してみます。

IgA腎症は腎炎症候群であり、糸球体へのIgA免疫複合体の沈着を特徴とする慢性糸球体腎炎の一病型である。世界的に最も頻度の高い病型の糸球体腎炎である。

原因は不明であるが、以下のような複数の機序が存在する可能性がエビデンスから示唆されている: IgA1産生の増加、IgA1グリコシル化の欠陥によるメサンギウム細胞への結合の増加、IgA1クリアランスの低下など。

薬剤性の可能性については全く記述されておりません。

ネフローゼ症候群についてMSDマニュアルより引用してみます。

ネフローゼ症候群はいずれの年齢でも起こりうるが、小児での有病率が比較的高く(主に微小変化群)、大半が1歳半から4歳までの間に発生する。 原因は年齢によって異なり、また原発性または続発性の場合がある。

続発性の原因は、小児症例では10%未満であるが、成人症例では50%超を占め、最も頻度が高いのは以下のものである: 糖尿病性腎症、妊娠高血圧腎症。アミロイドーシスは過小認識されている原因であり,症例の4%を占める。

薬剤性の可能性については記述されておりません。ただし、ネフローゼ症候群の場合は薬剤性の報告はあるため、可能性は高くはないがゼロとは言えません。

以上より、コロナワクチン接種後に発症した腎障害は、紅麹コレステヘルプのそれのように一つの疾患に集中して発症いるわけではなく、薬剤が原因である可能性の高い疾患が発症しているわけでもありません。したがって、厚労省の対応に差が生じたとしても不思議ではありません。薬剤が原因で発症する可能性が高い疾患の報告が急増した場合と、可能性が低い疾患の報告が急増した場合とで、厚労省の対応が異なることに大きな問題はありません。

コロナワクチン接種後の多数の腎障害の事例が救済認定されたということは、因果関係が認められたということだから、紅麹コレステヘルプのように厚労省は対応するべきだという反論があるかもしれません。しかし、救済制度の認定基準は厳密なものではなく、偶発的事象が含まれる可能性のあるゆるい認定基準なのです。

因果関係ありとするには、副反応疑い報告制度でα評価認定される必要があります。 腎障害のα評価事例が増加しなければ、厚労省が紅麹コレステヘルプのように対応することはないと考えられます。現時点では、IgA腎症もネフローゼ症候群もα評価事例は1件もありません。

非死亡例のα評価事例は、「薬機法に基づく製造販売業者からの副反応疑い報告状況について」より調べることができます。

α評価されるには何が必要か?

薬剤が原因である可能性が高くない腎障害の場合には、疫学的エビデンスが必要と私は考えます。単に内服後の腎障害の報告が多いという事実のみではエビデンスとして不十分です。

具体的には、コホート研究やシグナル検出によるエビデンスが必要です。それらのエビデンスがなければ、「重大な懸念」と厚労省は認めませんし、注意喚起もしません。

今後、腎障害の疫学的エビデンスが報告される可能性は?

コロナワクチンの疫学的研究は多数発表されていますが、現時点で腎障害に関して関連性が認められたという報告は、私が知る限りにおいてありません。ただし、その疫学的手法は、ほとんどがコホート研究です。コホート研究のみで分析することの問題点は以前の論考で解説しました。

コホート研究で有意差が認められなくても、SCRIデザインであれば有意差が認められることはあります。したがって、腎障害の疫学的エビデンスを得るためには、SCRIデザインによる研究が今後多数実施されることが必要であると、私は考えます。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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