村上春樹氏の1988年の小説「ダンス・ダンス・ダンス」の主人公は、飲食店の紹介記事を書くことが仕事である。そして、その仕事にうんざりもしている。
「そういうところで紹介される店って、有名になるに従って味もサービスもどんどん落ちていくんだ。(中略)それが僕らのやっていることだよ。何かをみつけては、それをひとつひとつ丁寧におとしめていくんだ。(中略)それを人々は情報と呼ぶ。生活空間の隅から隅まで隙を残さずに底網ですくっていくことを『情報の洗練化』と呼ぶ」
(ダンス・ダンス・ダンス 村上春樹著/講談社 1988年)
96年にグルメサイト「ぐるなび」がスタートしてから28年。「情報の洗練化」はさらに進んだ。グルメサイトは林立し、利用者が最も多い「食べログ」(カカクコム)の登録店舗数は85万店(24年1月現在)にのぼる。
その登録店舗が、アルゴリズム(算出方法)という「ブラックボックス」に翻弄されている。食べログに表示される自店の評価点が、どのような仕組みで決定されているのかわからないのだ。
そのブラックボックスを解析し、「差別的なアルゴリズム変更により、チェーン店の評価が一律に下げられている」と食べログを提訴したのが、焼肉チェーン「韓流村( 株式会社 韓流村)」である。
天王山は「3.5」同社は、アルゴリズム変更により、都心の店舗評価が、
「3.51点から3.06点に下がった」
と主張する。5段階評価で、「3.51」も「3.06」もあまり変わらないのでは? いや、そうではない。評価点3.5まで達することができるのは、掲載店舗中わずか「3%」だけ。97%の「その他大勢」なのか、上位3%の「満足できる確率の高い店(※)」なのかにより、利用者の見る目は大きく変わる。評価が下がった後、韓流村の予約は月500件から80件に急減したという。
※ 点数・ランキングについて[食べログ]