10日のような出来事は事前に予測されたことだ。救急車ではなく、家人が急病になったので病院に自家用車で運ぼうとした人が「最後の世代」の道路封鎖のために通過できない、といった事態は十分考えられる。救急車ではないので、「最後の世代」の活動家は分からないから道路に座り、車の通過をボイコットし続けるだろう。病気ではなくても、何か急用で会社や待ち合わせの場所に行かなければならない人もいるだろうし、子供を学校や幼稚園に送る親もいるだろう。運転する人の事情を道路を閉鎖する活動家は分からない。

路上を閉鎖された運転者が車から飛び出して活動家を掴み、道路脇まで引っ張っているシーンが夜のニュース番組で放映されていた。警察官の到着が遅れていたら、運転者と活動家の間で喧嘩が起きていたかもしれない。

「最後の世代」についてはこのコラム欄で既に2回、報じてきた。当方は環境保護活動に反対でもないし、気候変動は深刻な問題であるという認識を持っているが、「最後の世代」の活動は考え直すべきだ。

ドイツの「緑の党」の指導者で、ショルツ連立政権の経済相(副首相兼任)のロベルト・ハベック氏は2日、ハンザ同盟都市ブレーメンのミュージカル劇場で数百人の前で開かれた「緑の党」キャンペーンイベントで、「最後の世代」の活動家の行動について質問を受け、「民主主義の社会では政治運動は幅広い多数派を生み出すべきだ。『最後の世代』の活動家には敬意を持っている。彼らは未来に対して恐れている。ただ、国民から批判を受ける活動は政治的には間違っている」と強調し、環境保護グループの過激な活動に対して距離を置く発言をした。

「最後の世代」は、「私たちは気候変動の影響を感じた最初の世代であり、それに対して何かをした最後の世代だ」と述べたバラク・オバマ元米大統領(2014年9月23日のツイート)の精神を継承し、環境保護をアピールするために美術館で絵画にペンキを塗ったり、ラッシュアワーに道路を閉鎖するなどの過激な活動を行っているが、環境保護グループの間でもその行動の是非で議論を呼んでいる。オーストリアのネハンマー首相は路上を封鎖する環境ステッカーを「社会の破壊工作員」(Saboteure der Gesellschaft)と酷評しているほどだ。

道路の不法閉鎖活動で控訴された1人の活動家は罰金の支払いを拒否したために拘留され、期限が経過して釈放された。同活動家はメディアのインタビューに応じ、「今後も活動を続ける。私を止めることは死刑以外にはない」と言い張っている。

スウェーデンの環境保護活動家グレタ・トゥーンベリさんの「フライデーズ・フォー・フューチャー」では2019年9月、100万人以上が路上で抗議デモをした。それを受け、世界各国で環境保護協定などが施行されてきたが、ここ数年、コロナのパンデミック、そしてウクライナ戦争と大きな問題が生じ、環境保護運動はその陰に隠れてしまった感があった。

エジプトのシャルム・エル・シェイクで昨年11月6日から開催された国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)でも関係国間の利害の対立があって環境保護の進展は遅々たるものに終わった。「これでは何も改善されない」という危機感が環境保護グループの間に生まれ、「最後の世代」のようなメディア受けする過激な行動を展開するグループが出てきたのかもしれない。

オーストリア日刊紙クライネ・ツァイトゥングは2023年1月22日、「最後の世代」の運動が宗教的な衝動で動かされている面を指摘している。「彼らは世界の終わりが差し迫っていると信じており、人々に改宗を求めている。歴史的にみて決して新しいことではない。キリスト教とそれによって形成されたヨーロッパの歴史は、世界の終わりとその預言者の歴史でもあった。『地球は燃えている』という叫びは、私たちの文化的記憶に定着している。火と硫黄に沈む様子は、ヨハネの黙示録の世界だ。この地球上の最後の世代であるという考えは、既存の世界の終わりと新しい世界の夜明けを常に期待して生きた最初のクリスチャンの姿だった」と分析している。

「最後の世代」の活動家を初期キリスト教信者の姿と重ね合わせることには少々無理があるが、「最後の世代」の活動家には世界の終わりといった「終末観」が強く、それゆえに「この世の法など無視しても構わない」といった論理が生まれてくるのだろう。危険だ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年5月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。