一方で、米商業不動産向け融資は252億5,400万ドルと、2022年末の2倍増に膨らみました。貸出金総額の29.8%を占め、2022年末の18%を大きく上回ります。同行は「多角的な商業銀行への戦略的シフトを示す」と説明しますが、今回の決算では、これが痛手となりました。不良債権額4億4,200万ドルのうち、米商業不動産ローンを含めた不動産ローンが3億6,300万ドルと、大半を占めます。これらの融資焦げ付きにより、貸倒引当金を5億5,200万ドル積み増するに至りました。
不良資産は総資産の0.38%、貸倒引当金は貸出金総額の1.17%となっています。それぞれ、2022年末の0.17%、0.57%から上昇しました。ただし、 普通株式Tier1 比率は9.10%と十分な資本を維持しているとされ、破綻リスクは現時点で低いと言えそうです。
NYCBの決算後、格付け会社ムーディーズは米商業不動産の悪化を加味し、NYCBとその子会社であるフラッグスター銀行に対し、格下げ見直しの対象にしたと発表しました。NYCBのニューヨークのオフィスビルと集合住宅用不動産の予期せぬ損失、収益の低迷、資本金の大幅な減少、企業部門への資金依存の高まりを反映したものだといいます。
―米商業不動産の悪化、あおぞら銀にも波及
NYCBの赤字決算をもたらし米商業不動産悪化の激震は、日本にも波及しています。あおぞら銀行は2月1日、2024年3月までの今期連結業績見通しで、15年ぶりに最終赤字に転落すると発表。米商業不動産向け融資の損失が背景にあり、貸倒引当金の積み増しにより今期の純損益が一転して280億円の赤字に陥る見通しだといいます。
米商業不動産はコロナ禍でリモートワークが普及するなか大打撃を被り、ムーディーズ・アナリティクスによれば、2023年Q4に米オフィス空室率は19.6%と、1979年にデータを公表して以来で過去最悪を記録しました。
ただ、不動産情報会社JLLによれば、NY市のオフィス空室率は同年Q3に4.1%と、約2年ぶりに低下したといいます。米金融機関を始め、アマゾンやナイキ、さらに在宅勤務の恩恵を受けたビデオ会議システム大手ズームまで企業がオフィス復帰を要請するなか、改善の兆しが見えています。
その半面、2022年3月から5.25%の利上げを受け米景気減速が懸念される状況。何より、不動産データ会社トレップによれば、今年の米商業不動産の借り換え規模は約5,406億ドルで、以降も2027年にかけ高水準が続くだけに、金融市場の不安材料であることは間違いありません。
チャート:米商業不動産ローン、満期を迎える規模

f11photo/iStock
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2024年2月4日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
【関連記事】
・「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
・大人の発達障害検査をしに行った時の話
・反原発国はオーストリアに続け?
・SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
・強迫的に縁起をかついではいませんか?