企業も上司も成長が必要

だがもう1つの問題がある。それは若者が指導を通じて付加価値を感じ続けるような仕事が会社にある必要性だ。人は本質的に変化を嫌うから、経営者が意識的に有効なイノベーションや新たなビジネスへリスクテイクしていかなければ、思考を介さない旧態依然とした作業レベルの仕事ばかりが残るだろう。実際、そうなっている会社も多い。DX化による業務効率向上がなされないことにより、単なる人海戦術で仕事をこなすだけの付加価値の低い仕事で時間の多くを過ごすことになる。そうなれば、その職場で身につけられる技術も限定的になってしまう。つまり、若者が仕事を通じて労働市場を高められると感じるには、会社や上司がビジネス成長している必要がある。だがそのような会社は全体から見れば少数派ではないだろうか。

この状況が続くのはまずい。なぜなら、これが続けば競争力や変化への対応力に優れる海外企業へ人材が流れてしまい、日本企業の脆弱化、労働力不足、老化が懸念されるからである。筆者の親族もそうだ。定時退社で楽だが、ルーチンワークで労働集約的な作業が多い日系企業に見限りを付け、少々ハードワークだが先端のテクノロジーを仕事を通じて活用できる米国系企業へ転職してしまった。

この流れに歯止めをかけるには、日系企業とそこで若者を指導する立場のビジネス的な成長が必要になるのではないだろうか。

市場価値を意識する若者

誰からも指導されず放置され、自分の仕事が合っているかどうかが分からず、技術やノウハウが向上しないまま時がすぎれば誰しも先行き不安になる。入社した会社に一生涯かじりつくつもりでない若手社員にとっては、技術がつかないまま労働市場に放流されることは何よりも大きなリスクに感じるはずだ。上司の鬱憤晴らしのような叱責は論外だが、フィードバックを提供する指導は強く求められている。

自分は仕事柄、20代前半の若者にキャリア相談を受けることもよくあるが、みんなしっかりと自分の将来キャリアを意識していて驚かされる。自分が同じ年の頃はそこまで考えていなかったので余計にそう思える。彼ら/彼女らは今勤務している会社が永続するという前提で、社内政治力や上手な世渡り力を付けて長くしがみつこうなどとはまったく考えない。専門知識をつけ、技術を磨いて市場価値を高め、なんならグローバルに通用する人材を目指したいと考える人も多い。むしろ、中年期の人より意欲は高いと感じている。そうした向上意欲に溢れる人材を生暖かいが、何も得られない環境に閉じ込めておけば不安しかないだろう。若さが武器になる内に飛び出して大海を目指したいと思う気持ちはよく分かるのだ。

本稿では会社と社員の関係性について取り上げたが、これは人間関係の本質的な話に通じると思っている。すなわち、人間関係においても「この相手からは得られるものがない。」と思ったら自然に人は離れていくものである。ここでいう「得られるもの」とは必ずしも付加価値的な情報やスキルに留まらない。一緒にいて楽しいとか、安心するとか、気分が上向くといった人的魅力のパーソナリティも含まれる。会社と社員と言っても、その本質的な関係性はどこまでいっても人と人である。つまり、上司も会社も若者からみて惹きつける魅力を持つ必要性が問われているのではないだろうか。

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