Appeal to trust
ある人物に対する信頼を根拠にその人物にとって有利な言説を肯定する
<説明>
「信頼に訴える論証」とは、特定の人物に対する【信頼 trust】を根拠にして、その人物の言説を無批判に肯定するものです。
特定の人物を信じる感情には【信用 credibility】と【信頼 trust】があります。この二つには明確な違いがあります。
特定の人物を信じる感情
信用:その人物が遂げた客観的な実績の評価を基にした帰納推論(理)によって得られる感情信頼:その人物に対する主観的な人格の評価を基にした当て推量(勘)によって得られる感情
つまり、「信用」には特定の人物を信じる客観的根拠がありますが、「信頼」にはありません。詭弁を使うマニピュレーターは、あたかも「信頼」を「信用」であるかのように混同させて、自分にとって好都合な結論を導きます。
なお、仮に論者に対する人格の評価が適正であったとしても、言説の真偽と論者の人格は無関係であるため、論者への「信頼」を根拠に、論者の言説の真偽を判断するのは誤りです。
一方、論者への「信用」を根拠に、その信用に関係する論者の言説の真偽を判断するのは、一定の蓋然性が存在します。ただし、言説の真偽の判断に最も重要なのは、言説の論点と論拠の真偽であり、言説の論者への信用を根拠にするのは正統ではありません。
A氏には信頼を感じているでA氏の言説は真である。
<例>
この政治家は信頼できるので、この政治家の言っていることは正しい。
これは、政治家に騙された有権者がよく口にする言葉です。論理的な観点から政治家を選ぶにあたって重要なポイントは、「政治家に対する信頼」ではなく、まずは「政治家の政策」、次に「政治家に対する信用」です。候補者の人格の宣伝に終止する選挙運動には注意するのが賢明です。
また、政治家が選挙運動において有権者に握手を求める行為や手を振る行為は、好意の返報性(恩を受けた人物へ恩返したいと考える人間の認知バイアス)を利用して「信頼」を得ようとする子供騙しの工作であり、「信用」するに値しません。