このブログをお読みの方はクビ切り制度について反対の方が多いのも知っています。ただ、クビを切られる北米はどうやって生きているのか、知っていても損はないでしょう。

私の知る世界最大手の一角の会計事務所のバンクーバー事務所。そこでも当然激しい出世競争が繰り広げられます。まず、社員は自分の専門性を高めるため、税務に行くか、会計に行くかを決めます。会計事務所で税務は花形ですが競争も激しく振り落とされる可能性も高い部門です。一方、会計はとにかく安定しているので結構いい年齢になるまでポジションにしがみつく人も多く、偉くなる枠が少ないという問題があります。その中で年に1-2度ある人事で自分が昇進の候補から落ちた場合、その会社を辞職し、違うところに転職するか、自立する選択をします。なぜなら自分のキャリアに傷がつく前にさっさと辞めて新天地を探す方が精神衛生上、前向きだからです。

つまり、北米ではリストラでクビを切られたりするケースもありますが、それ以前に自分で見切りをつけて新天地を見つける動きが多く、人材の流動性が高いとも言えるのです。専門性を高めるために会社を2-3つぐらい渡り歩けばその分野についてはかなり精通できるわけで、プロとしての自意識も高まるというものです。

日本と北米のこの違いの本質は何か、と言えば社員が自分で立てるかどうか、なのだと思います。但し、私は北米のやり方が両手放しでいいとも思っていません。北米がややもすれば一匹狼型になるのに対して日本の組織力はすさまじく強いのです。但し、時としてそれが後ろ向きに出てしまう、それが怖いのです。

トヨタグループの問題の本質が注目されそうです。豊田織機の23年3月のエンジン認証不正問題を受けた特別調査委員会が報告書を発表、不正はさらに広がり、トヨタ車10車種などが新たに出荷停止になりました。それよりも調査委員会の内容が辛辣で「トヨタから指示されたことは実行できるが、自ら問題や課題を発見し、それを解決する方策を導き出す力が弱い」(産経)と指摘されています。この件は以前から何度も本ブログで申し上げてきたことなので驚きはありません。

日本は冒頭に申し上げたグループ本体の傘下に多数の子会社、関連会社をぶら下げることで一種の帝国を作り上げます。ではなぜトヨタだけがこの問題が噴出するのでしょうか?2つあると思います。1つは本体であるトヨタ自動車のステータスが圧倒し、販売台数も稼ぐ力もずば抜けていること、もう1つは豊田章男氏のカリスマ性と創業家とそのブランド、更に自動車好きで自工会でも長年トップに君臨するなど業界で圧倒的地位を確立し「後光が差している」ことだろうとみています。つまり、皇帝であります。

こうなると下は上の命令に従わねばならないのです。それは共に働くという組織ではなく、体育会系の強制力に代わるわけです。今回の委員会の報告にある「コミュニケーション不足」のみならず、「『NO』と言えない社風」、「聞きたくないことには耳を塞ぐ体質」が会社をどんどん弱体化させていったわけです。

個人的には日本の管理職は解雇できる仕組みにした方がよいと考えています。そして企業が社畜の墓場のように関連会社に出向させるその仕組みこそ、クビを切られるより酷い人権問題が内包されていると考えています。多くの人権主義者はクビを切ることは悪だ、との思い込みがありますが、切られれずに資料整理室で余生を過ごすのが人権的に正しいとお考えなのか、私は問いてみたいと思います。

人には立ち上がる能力を本来持っています。ですが、日本の組織は時としてそれを奪い取ってしまう、そうすると組織の一部が壊死し、それがどんどん転移する、この好例がビッグモーターであり、更に損保ジャパンという出入り会社にまで転移したとも言えるのです。この事実は真摯に受け止めるべきであると考えます。

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年1月30日の記事より転載させていただきました。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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