インフレがひどくなって実質賃金が下がり、政府も日銀も賃上げを求めているが、サラリーマンの賃金を最大15%上げる簡単な方法がある。社会保険料の事業主負担を廃止し、本人負担に一元化するのだ。

サラリーマンの社会保険料負担率は30%

サラリーマンの給与明細を見ると、この例では課税対象となる総支給額22万円に対して、社会保険料の合計は3万145円で13.4%。40歳以上はこれに介護保険料1.73%が加わるので、総支給額に対する負担率は約15%だが、この総支給額には会社の払う事業主負担が含まれていない。

事業主負担は本人負担と同じ約15%なので、社会保険料の算定基準となる報酬月額に対する保険料率は約30%である。これは「労使折半」ということになっているが、会社としては人件費(法定福利費)なので、事業主負担も本人負担も同じである。では事業主負担がなくなったら、賃金は増えるだろうか?

事業主負担のほとんどは労働者に転嫁される

これは租税の帰着という経済学の応用問題である。単純化のために正社員の労働供給は賃金に依存しないとすると、図1のように垂直になる。ここに事業主負担が追加されると、企業はその分賃金を下げるので、結果的には事業主負担は賃金の低下として労働者に転嫁される。

図1 労働供給が被弾力的な場合の事業主負担の帰着(RIETI)

労働供給が弾力的な非正社員の場合には賃金は100%減らないが、雇用が減る。いずれにしても事業主負担のほとんどは労働者が負担するので、それがなくなったら図の矢印は逆になり、賃金は上がる。

実証研究でも、図2のように2010年代に社会保険料が上がったため、企業の人件費は増えたのに給与は減ったという結果が出ている。

図2 人件費と給与(2000年=100)出所:家計調査(総務省)

事業主負担は19世紀にビスマルクが「社会政策」として企業年金を公的に補助したのが始まりだ。これは今では労働者を企業にロックインし、多様な働き方を阻害するだけで、労働者の負担軽減になっていない。