共通点3:内閣改造で逃れようとするも失敗

竹下内閣は宮沢蔵相を更迭し、内閣改造で人心一新をはかったが、改造内閣の長谷川法相がリクルートから政権金を受け取っていたことが判明して、混乱は深まった。

しかし竹下内閣は解散・総選挙に打って出ると政権が倒れるリスクもあり、満身創痍で1989年の通常国会にのぞんが、内閣支持率は5%まで落ちて史上最低となった。

とどめを刺したのは竹下自身のリクルートからの政治献金が新たに見つかったことで、首相秘書の青木伊平が自殺した。竹下は消費税法案の成立と引き替えに、89年6月に総辞職した。

岸田内閣の支持率は17.1%まで落ちたが、これは竹下内閣の88年12月の支持率とほぼ同じで、まだ下がる余地はある。ポイントは、岸田首相にスキャンダルが出てくるかどうかだろう。

今回は内閣改造もしないで、安倍派の閣僚や副大臣だけを更迭した。これは今後まだ出てくることを警戒したのだろうが、こんな中途半端な処分では収まらない。

岸田派に延焼したらどうするのか

リクルート事件の教訓からいえるのは、スキャンダルが出尽くすまで人事の入れ替えでは収まらないといいうことだ。検察の捜査に全面的に協力して「そこまでやるか」というぐらいきびしく処分したほうがいい。

今回の人事で疑問が残るのは、林芳正官房長官の起用である。岸田派にも裏金疑惑が出ている。これから岸田派の議員が強制捜査を受けた場合、派閥のナンバー2だった林氏に責任がなかったといえるのか。

竹下内閣の場合は通常国会で消費税という大きな問題を抱えていたため、総辞職もできなかった。後任もリクルートから金をもらっていない(力のない)政治家から選ばざるをえず、宇野宗佑を選んだ。

だが宇野は、就任後まもなく神楽坂の芸者を妾にしていたスキャンダルが報道され、89年7月の参議院選挙で自民党は大敗した。宇野は退陣し、海部首相をへて、結局リクルート関係者だった宮沢が首相になったが、小沢一郎などが離党して、93年に政権交代が起こった。

今回の裏金事件は、刑事事件としての違法性は明確だが金額は小さく、起訴は困難だろう。リクルート事件のときは、政治家としては官房長官だった藤波孝生と公明党の池田克也だけが起訴されたが、今回も検察が起訴するのは、特に悪質性の強い事務総長経験者などに限られるのではないか。

しかし政局への影響は大きい。リクルート事件も刑事事件としては大したことなかったが、89年の参議院選挙では社会党が参議院第一党になり、土井たか子委員長は「山が動いた」と言った。

その後の自民党の分裂や政権交代も、リクルート事件が震源だった。リクルート事件は、まさに日本の政治を大きくゆるがしたのだ。

今回の事件がそれほど大きなインパクトをもたらすとは思えないが、岸田首相と安倍派の不協和音が高まると、自民党が分裂するかもしれない。それは長い目で見ると、日本の議会政治にとって健全なことである。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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