今回の裏金事件は、35年前のリクルート事件によく似ている。その共通点を照合しながら、今後のゆくえを考えてみよう。
リクルート事件の発端になった川崎の事件は、川崎市の再開発事業でリクルートがビルを建てるとき、当時の小松助役にリクルートコスモスの未公開株3000株を譲渡し、それを公開直後に売って助役が1億2000万円の売却益を得たものだ。リクルートがビルを受注した直後に容積率が300%から700%に引き上げられ、これが助役の職務権限とされた。
神奈川県警はこの事実をつかんで捜査したが、結果的には立件しなかった。それは未公開株の譲渡が1984年で贈賄の時効(3年)を過ぎていたことと、上場のとき関係者に未公開株を譲渡するのは普通の商慣習で、助役は代金を払っていたので賄賂と認定するのはむずかしいと判断したためだ。
今回の裏金事件も、派閥のパーティ券を議員が売って一部をキックバックしてもらうこと自体は違法ではない。それを政治資金収支報告書に記載しないのは違法だが、よくあることで形式犯だ、という意識があったのではないか。記載しないと「雑所得」として所得税法違反になるが、脱税としては小規模で起訴には至らない。
共通点2:検察が動くと一挙にシロがクロになるリクルート事件は朝日新聞だけが、横浜支局の山本博デスクの判断で1988年6月に報道した。収賄の時効は5年なので、小松助役は川崎市の百条委員会で解職された。朝日は譲渡先の名簿を入手し、そこには中曽根康宏、宮沢喜一、竹下登などの大物政治家がリストアップされていたが、検察は動かなかった。
しかしこの事件が国会で取り上げられ、社会民主連合の楢崎弥之助が譲渡先名簿の公開を要求したのに対して、8月にリクルートの松原社長室長が議員会館を訪れ、500万円を渡そうとしている場面を日本テレビの隠しカメラで撮影された。
これは明白な現行犯(贈賄に未遂はない)であり、東京地検特捜部はリクルートを家宅捜索し、関係者を次々に逮捕し始めた。まるでオセロのように、検察が動くと、それまでシロだった政治家が次々にクロになった。
今回も昨年10月に共産党が刑事告発したときは誰も気にとめなかったが、東京地検特捜部が松野官房長官を捜査しているという報道で、大スキャンダルになった。このようにゲームのルールが変わると、大スキャンダルになる。