なぜ政財界のリーダーに低音が求められるのか。進化心理学者は、遠い昔人類が部族に分かれて暮らしていた時代、狩猟や部族間の争いにおいて必要とされたのが身体の大きい屈強な男性で、自ずと彼らがリーダーになった。大きな男性の声は一般的に低いバスなので、やがて低音がリーダーシップを表象するようになり、それが今日においても残っていると説明する(“New study finds a lower voice adds credibility to leadership, depending on gender,”08/25/22)。つまり、人びとは低音の人のほうがリーダーシップに長けていると認識するのである。

リーダーの声は低音であるべきという通念が女性にも適用され、政財界における女性の出世の必須アイテムになった。さらに、サッチャーやホームズのように低音を武器にする女性も現れた。

ところが、最近、女性リーダーには必ずしも低音が求められていないという研究結果が報告された。カンサス大学のMidam Kim博士は、CEOの声の高低とかれらへの信頼度の関係をクロスさせた実験を行い、男性CEOでは低音ほど信頼度が高い結果になったが、女性の場合相関性は明瞭ではなかったという結果を得た(“New study finds a lower voice adds credibility to leadership, depending on gender,”08/25/22)。

博士は、人びとは男性リーダーには自己主張が強く、他者をコントロールするような支配的なリーダーシップを求めるのに対し、女性では親切かつ同情的で、他者への助力を惜しまない協調的なそれを期待するのではないかと分析している(“Women don’t really need to lower their voices to be taken seriously, says University of Kansas study,” Oct 30 2022)。

もっとも、これはこれで、「男性は強く、女性は優しく」といった伝統的ジェンダー観に基づく期待のようで、釈然としないが、まあ女性がステレオタイプな男性リーダーの真似をする必要はないという点には賛成できる。要は、場所や時間をわきまえ、その場の雰囲気に相応しい声のトーンを心掛けることであろうか。

さて、件のJRのアナウンスの声、個人的には決して嫌いではないが、聞く度に気恥ずかしくなるような気がする。実際、外国人はどのように感じているのだろう。知りたいところだ。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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