ハベック経済相は「私にとって、供給保証は絶対的な優先事項であり、常に事実、データ、および法規に基づいて働いてきた」と強調し、イデオロギーに基づく政策ではないと説明した。なお、議論の余地のある文書(2023年3月3日付)、運転期間延長の検討を支持する文書については、ハベック氏は「25日に初めて目にした。それは私が直接指示したものではない。省内で異なる意見があるのは普通だ」と語った。
CDUやFDPの議員に中にはハベック氏の説明を納得できず、辞任を求める声や、議会の調査委員会の設立を求める声が出ている。もし経済省や環境省に国民を欺いた文書、証拠が見つかれば、ショルツ政権の脱原発路線の信頼性が大きく揺らぐことになる。
ドイツの脱原発路線は2000年代初頭の社会民主党(SPD)と「緑の党」の最初の連合政権下で始まり、CDU/CSU主導のメルケル政権に引き継がれていった。SPDと「緑の党」は原発操業の延長には強く反対する一方、産業界を支持基盤とする自由民主党(FDP)は3基の原発の23年以降の操業を主張し、3党の間で熾烈な議論が続けられてきた。最終的には、ショルツ首相は「緑の党」とFDPと交渉を重ね、2022年10月17日夜、首相の権限を行使し、2基ではなく、3基を今年4月15日まで操業延長することで合意した。具体的には、バイエルン州のイザール2、バーデン=ヴュルテムベルク州のネッカーヴェストハイム2、およびニーダーザクセン州のエムスランド原子力発電所だ。
ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、ロシア産の原油、天然ガスに大きく依存してきたドイツは環境にやさしい再生可能なエネルギー源の利用に本腰を入れてきた。ロシア産天然ガス・原油依存脱却を第1弾目とすれば、脱原発という第2弾目のエネルギー政策の大転換が実質的に始まったわけだ。
原子力エネルギーの将来の問題では欧州連合(EU)内でも意見が分かれている。経済大国ドイツは脱原発の道を歩みだしたが、フランスでは小型原発の開発などが活発化し、チェコ政府は原子力発電の拡大を加速するなど、原子力エネルギーのルネッサンスという声すら一部で聞かれる。EUの欧州委員会は2022年、「ガスおよび原発への投資を特定の条件下で気候に優しいものとして分類する」という通称「EUタクソノミー(グリーンな投資を促すEU独自の分類法規制)」を発表し、原発の利用の道を開いている。
ロシア産天然ガスの輸入に依存してきた欧州諸国、その中でも70%以上がロシア産エネルギーに依存してきたドイツの産業界は脱原発、再生可能なエネルギーへの転換を強いられるなど大きな試練に直面している。ショルツ政権が推進するグリーン政策に伴うコストアップと競争力の低下は無視できない。ドイツの国民経済はリセッションに陥っている。脱原発政策に対して、国民の過半数が不安を感じているという世論調査が出ている(「ドイツ国民の過半数『脱原発』に懸念」2023年4月14日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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