この部分から分かることは、「白旗」という単語を持ち出したのは教皇ではなくインタビュアーであるということ、教皇は「白旗を掲げること」はあくまで選択肢の一つとして考えていること、教皇が『ウクライナが』白旗を掲げるべきとは一言も言ってないこと、敗北して物事がうまく行かないと分かった時に大国の助けを借りて交渉することを促していること、教皇が最も懸念しているのは死者が増えることであることです。
もちろんインタビュアーはウクライナについて質問していますから、この教皇はウクライナのことを対象にして答えているはずですが、「自分たちが敗北し、物事がうまくいかないとわかった」と発言していることから、私にはロシアのことも同時に意識して解答しているように読めます。
なぜなら、ウクライナという国や国民の存在を否定して、武力で物事を理想的な状況にしようと明確な意思表示をして行動しているのは、明らかにロシア側であるからです。しかもロシア側はウクライナの首都キーウを数日で制圧してウクライナ政府を倒せるはずだと見込んでいたと思われます。
「物事がうまくいかない」傾向が強いのは、ロシア側であるように見えます。
また、教皇が促しているのは、まず白旗を掲げることではなく、交渉することです。教皇がロシアの軍事作戦の件について交渉を促したのは今回が初めてではなく、むしろ作戦開始直後にすでに交渉について触れています。
交渉を促す教皇の姿勢は、むしろ開戦直後から変わっていません。
This appeal has taken on dramatic urgency following the beginning of Russian military operations in Ukrainian territory. The tragic scenarios that everyone feared are becoming a reality. Yet there is still time for goodwill, there is still room for negotiation, there is still a place for the exercise of a wisdom that can prevent the predominance of partisan interest, safeguard the legitimate aspirations of everyone, and spare the world from the folly and horrors of war. (ウクライナ領内でのロシアの軍事作戦の開始を受けて、この訴えは劇的な緊急性を帯びてきた。誰もが恐れていた悲劇的なシナリオが現実のものとなりつつある。しかし、まだ善意の時間はあり、交渉の余地はあり、党派的利害の優位を防ぎ、すべての人の正当な願望を守り、世界を戦争の愚行と恐怖から救う知恵を発揮する場は残されている。)
おそらく今回の「白旗」発言の件について、ロシアを応援する人々一部は、ローマ教皇も自分達の味方になってくれた、自分達の意見を認めてくれたと考えたと思われます。
しかし昨年9月にローマ教皇がウクライナへの武器供与は「自衛のため倫理的に容認可能」と発言していることや、ウクライナへの武器供与を保留することでウクライナ人が「殉教者」になると述べたことや、今年1月には国際的な関心がウクライナへの戦争から移りつつあることをに懸念を表明していることを忘れてはいけません。
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大田 位(おおた ただし) 社会人。日本に関連しそうな海外記事が好き。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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