ところが近年は、下請け業者や協力会社の人員などに対しても常識的な労働工数を依頼し、無理なことは押し付けないということが当たり前になってきています。
また元請けの会社と下請けの人が、実質的には「雇用関係」であった場合には、元請けは下請けの人に無理な作業を押し付けたり、自殺するほどの作業を強要することは違法です。
これを「安全配慮義務」と呼び、労働契約法第5条に規定されています。
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」もので、作業環境やメンタル面の健康に配慮しなさいね、ということです。
月80時間を超えるような長時間労働や、パワハラ的な言動も「安全に配慮しない」ということになります。
実質的な「雇用関係」とは、下請けや派遣の労働者であっても、例えば作業の道具を与えられていたり、仕事の指示や命令は元請けの人から直接受けていたり、作業を実際はほぼ断ることが不可能な状況で働いていたような状況になります。
芦原先生は連載を抱えており、漫画の掲載を拒否することはかなり難しい状況だったでしょう。また、紙の雑誌の場合は休載や連載をやめてしまうことはかなり難しいことです。
多くの漫画家は、連載の原稿料でオフィスの賃貸料やアシスタントさんのお給料を支払っていますから、 原稿を締め切り通りに上げないということは、ビジネスのランニングコストに関わってきてしまいます。
多くの漫画家は単行本が出て印税が支払えることで、赤字になることを防ぐことができるという状況です。そのような状況にある場合、出版社からの指示を断ることはなかなか難しいのではないでしょうか。
そして、ドラマ化も原作者の知らないところでどんどん進んでしまうということがよくあるようです。制作や放送が決まってしまっている時点では、ノーということはほとんど不可能なのではないでしょうか。
そうだとすると、脚本のチェックや追加執筆といったことも、断るということはほぼできなかったのではないかと思われます。
このような環境の中で、さらに負荷とストレスの重い作業をやっていた芦原先生が、メンタルのバランスを崩してしまったという可能性はないでしょうか。
下請けや外注業者に無理な注文をしたり、過労死になるような労働時間を強いる企業に対して、イギリスの場合はかなり重い罰則が存在しています。市場レート以下の報酬を支払う企業に対しても、厳しい判断が下ることがほとんどです。
ところが、日本の場合は外注業者や下請けにあたる人々にかなり厳しいことを要求することが当たり前になっています。フリーランスとして働く漫画家やライターの人々の激務や安い報酬は、「慣例だから」という言い訳で放置されてきています。
これは出版業界だけではなく、製造業や流通、医療、介護、小売など他の業界で働く方々も同じような状況にあるということが言えるのではないでしょうか。
日本は立場が弱い人に無理を言って仕事をやらせて、人を使い捨てにするということをやってきました。しかし、少子高齢化の日本でそんなことをやっていたら、もうビジネスは立ち行かなくなります。
製造業などは昔に比べると大分改善されてきましたが、コンテンツ業界に関してはまだまだです。そして今回このような悲劇が起きてしまいました。
状況が改善されないのであれば、漫画家や作家はもう出版社にはコンテンツを提供しなくなるでしょう。ネットで直販するルートがあるので、頼らなくても済むからです。
実際にアダルト系の漫画の世界では、主流はネットです。映像化を望む漫画家や作家は、高額報酬を提示し、細かい契約書を締結してくれる海外の会社からのオファーを受けるようになるでしょう。
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提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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