図表3(エネ庁)
ところが今回の原案では、リプレースの条件が「同じ敷地内」に緩和された程度で、具体的な増設の計画はない。何より電力会社が政治的リスクの大きい原発に巨額の投資をする気がない。これでは2040年に2割というのも不可能である。
官民の信頼関係がすっかり崩れたので、火力への投資も最小限になる。電力は完全自由化したのだから、電力会社も最小限の投資によって最高の価格で売る。今までは(北海道を除いて)大停電は避けられたが、今後は普通の国のように停電が日常茶飯事になるだろう。
電気代は3倍、ガソリン代は4倍になるその結果、起こるのは電気代の激増である。産業用電気料金は平均約28円で、すでに事故前の2010年の約2倍になった(図表4)。その最大の原因はウクライナ戦争による天然ガス価格の上昇だが、その後も上がっている原因は再エネ賦課金が今年度4.8兆円に上がるからだ。
図表4(エネ庁)
たとえ再エネがkWhベースで半分になっても、その稼働率は1~2割なので、8割以上の時間はバックアップとして火力や原子力が必要である。原子力はほぼ現状維持なので、火力でこれだけ削減するには、化石燃料の代わりに水素やアンモニアを燃やす必要がある。水素のコストはLNGの3~4倍、アンモニアは2~3倍なので、石炭火力を水素やアンモニアに代えると、電気代は3倍以上になる。
最大の難問は電力ではない。最終エネルギー消費のうち、電力は25%にすぎない。あとの75%は、熱利用や運送などに使われる化石燃料から出るGHGである。これを減らす限界削減費用は、2040年に73%削減するためには(低成長シナリオでは)2040年に今の2倍、2050年には今の3倍になるというのがRITEの予想である。
図表5(RITE)
この限界削減費用に等しく炭素税(GX賦課金)を決めると、2040年にはガソリン税は385%かけなければならない。電気料金だけでなく生活費や企業のコストが大幅に上がり、製造業の空洞化が起こるだろう。今ドイツで起こっていることだ。