そのうえ、これらのマウスは、脳が小さい種の腸内細菌叢をもつマウスよりも多く餌を食べたにも関わらず、体脂肪率は低く、体重増加も少ない、太りにくいマウスになりました。
対照的に、脳が小さい種の腸内細菌叢を接種したマウスは、脂肪の蓄積と体重増加が顕著で、太りやすいマウスになりました。
分析すると、脳が大きい種の腸内細菌叢を接種したマウスではピルビン酸生合成やグリコーゲン分解などエネルギーを生み出すための経路が豊富であることがわかりました。
加えて、これらのマウスでは酢酸やプロピオン酸、酪酸といった短鎖脂肪酸の増加がみられました。
短鎖脂肪酸が体内で増えることで代謝に与える影響はいくつか考えられます。
例えば、酢酸の増加は脂肪生成を促しますが、プロピオン酸はこの酢酸の効果を阻害し、さらに、両方の濃度が上がると神経伝達物質やホルモンを介して、グルコースを作る経路である糖新生を促進します。
また、腸はエネルギーを多く消費しますが、酪酸を優先的にエネルギー源として使用するため、体内で酪酸が増えれば腸でのグルコース消費が節約でき、その分、脳にグルコースを供給しやすくなります。
つまり、脳が大きい種の腸内細菌叢は、脳へのエネルギー供給を優先するため、エネルギーの生成と利用を促進させるような代謝の調整を行い、エネルギーを脂肪として蓄えるのではなく、脳と他の組織間でのエネルギー配分を調節していたのです。
続いて、肝臓での遺伝子発現パターンを調べたところ、脳が大きい種の腸内細菌叢をもつマウスでは糖新生や脂肪生成、脂肪酸代謝など代謝に関連する遺伝子の発現に変化がみられ、遺伝子レベルでもエネルギーが優先的に脳に供給されるような調整が行われていると示されました。