国内銀行トップの三菱UFJ銀行で不祥事の発覚が止まらない。玉川支店に勤務していた店頭業務責任者(すでに懲戒解雇)が顧客約60人の貸金庫から計十数億円に上る資産を窃取した事件について、16日に半沢淳一頭取らが記者会見を行ったが、19日発売の「週刊文春」は、大阪府内の支店の元副支店長が顧客企業に脅迫行為を行い逮捕・起訴されていたと報道。6月には、同行が顧客企業の事業統合などに関する非公開の情報を、同じグループ傘下の三菱UFJモルガン・スタンレー証券に流し、同証券がその一部をモルガン・スタンレーMUFG証券に流すなど、「ファイアーウォール規制」に違反していたとして、金融庁から金融商品取引法に基づく業務改善命令を発令されていた。昨年には三菱UFJモルガン・スタンレー証券が発売していた950億円分ものクレディ・スイス発行「AT1債」が無価値化したことを受け、損失を被った顧客が損害賠償を求めて集団訴訟を提起。購入した人の多くは、グループ企業である三菱UFJ銀行から取次を受けた富裕層や高齢者だった。このほか、前出「週刊文春」記事によれば、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が社員向け研修で、高齢者向けに元本割れリスクのあるハイリスク商品を販売するロールプレイ型教育を行っていたという。あるメガバンク行員は「『三菱UFJ銀行だから大丈夫』と妄信すると痛い目にあう危険がある。顧客を食い物にしているという印象すら受ける」と警鐘を鳴らす。
三菱UFJ銀行は16日の会見で、玉川支店の元店頭業務責任者が練馬支店と玉川支店の顧客の貸金庫から金品を詐取していた事案について、この行員がスペアキーを使って貸金庫を無断で開けていたと説明。スペアキーは専用の封筒に入れて顧客の印鑑と銀行の管理者の印鑑を使って封をして専用キャビネットに保管するという運用になっているが、この行員は店頭業務責任者であったためキャビネットを開けることができたという。
事件の公表から会見実施まで約1カ月の間隔が空いたことに批判も出ているが、この日の会見で一切触れられなかった別の重大な不祥事が存在する。それが前述の元支店長による顧客企業への恐喝事件だ。全国紙記者はいう。
「当初、貸金庫の問題については銀行としてはお詫びリリースを出すにとどめて会見を開く予定はなかった様子。ある意味で銀行も窃盗の被害者という見方も成り立つし、経営陣も一行員のおかしな行為のためにわざわざ会見を開いて頭を下げ、記者から追及を受けるというのは避けたいという思いがあったのではないか。だが、今月初めに野村証券の社長が、元社員が顧客の自宅に放火したうえで現金を奪った事件について会見を開いて謝罪し、役員報酬の自主返上にまで踏み込んだ。これを受けて、なぜ三菱UFJ銀行は会見を開かず逃げているのか、という声が広まったことも影響したとみられています」
高齢の富裕層・純富裕層がターゲット
ここ最近の三菱UFJ銀行の不祥事はこれだけではない。6月には、同行が顧客企業の事業統合などに関する非公開の情報を、同じグループ傘下の三菱UFJモルガン・スタンレー証券とモルガン・スタンレーMUFG証券で共有していたことが発覚。三菱UFJ銀行が顧客企業に対し、証券2社との取引を条件に貸出金利を優遇することなども提案していたという。金融商品取引法では、顧客情報の適切な管理、利益相反取引の防止、優越的地位の濫用防止などを目的としたファイアーウォール規制が定められており、銀行と証券会社が顧客の承諾なしで非公開情報等を共有することは禁止されている。金融庁は同行に対して業務改善命令を発令した。
「旧三菱UFJ証券とモルガン・スタンレーの提携がスタートして10年以上たつが、純利益ベースでは野村ホールディングス、みずほ証券、大和証券に遠くおよばない状況が続いている。背後からは2年前の相場操縦事件の傷が癒えて業績が伸びているSMBC日興証券が迫ってきており、数年以内に抜かれる恐れもある。そうしたなかで、なんとか証券部門の業績を底上げしなければならないという強いプレッシャーが、グループ内で生じていたのではないか」(証券会社社員/6月7日付当サイト記事より)
このほか、前述のとおり三菱UFJモルガン・スタンレー証券は過去に販売したAT1債をめぐっても問題を抱えているが、前出「週刊文春」記事によれば、同社は社員向け研修で、高齢者向けに元本割れリスクのあるハイリスク商品を販売するための教育を行っていたという。
「昔から従来型の大手証券会社のリテール分野では“小金持ちの高齢者相手に稼ぐ”というのは常識でした。そして現在では、三菱UFJに限らず金融機関はどこもウェルスマネジメント(個人資産を包括的に管理・運用するサービス)を成長の柱に据えて注力していますが、その主なターゲット顧客となるのは、やはり高齢の富裕層・純富裕層ということになります。なので、この層をどう攻略していくのかという点を意識した社内教育を行うのは当然ともいえます」(大手証券会社社員)