そんなセブン-イレブン本部が、値引き「禁止」から「推奨」に方針を改めたのはなぜか? 食品ロス対策だけが目的ではない。コンビニオーナーを懐柔するためだ。
粗利の54~74%という高いロイヤリティ。売上を激減させる近隣出店(=ドミナント戦略)。ロイヤリティ率が2%アップしてしまう深夜休業(※3)など。
これまで、コンビニオーナーたちは、セブン-イレブン本部から冷遇されてきた。値引き推奨は、悪化した関係を改善するためでもある。
新規オーナーの成り手不足、既存オーナーの高齢化など、国内コンビニに大きな成長は望めない。よって、経営環境を改善し、現オーナーの離脱を防ぎ、現状を維持する。これが、セブン-イレブン本部と加盟店の「間合い」となる。
その一方で、期待が高まるのが、海外コンビニだ。売上高は、8兆5千億円と国内コンビニの約9.2倍。セブン&アイは、この巨大市場とどのような間合いをとろうとしているのだろうか。
海外コンビニの課題国内と海外の金額を、詳しく比較してみよう。
国内コンビニ(セブン-イレブン・ジャパン)の売上高は9217億円、営業利益は2505億円。対して、海外コンビニ(7-Eleven, Inc.)の売上は8兆5169億円、営業利益は3016億円。
売上は、国内コンビニの「9倍」以上あるにもかかわらず、営業利益は「1.2倍」しかない。なぜか? フランチャイズ店が少ないからだ。
利益率を比較するとわかりやすい。国内コンビニの利益率は「27.18%」。対して海外コンビニは「3.54%」と、日本の小売の平均利益率「2.8%」を少し超える程度だ(※4)。
つまり、海外コンビニの利益率は「普通」に近く、国内コンビニの利益率が「普通ではない」、ということがわかる。
国内コンビニは、フランチャイズ店が、ほぼ全てを占めている(99.1% 24年2月時点)。一方、海外コンビニのフランチャイズ店は、半分強でしかない(55.2% 23年12月時点(※5)。
よって、海外コンビニの優先課題は
「『普通ではない』店、すなわちフランチャイズ店を増やすこと」
となる。また、すでに半分以上をフランチャイズ店が占めているにもかかわらず、利益率が低い。これは、仕入れルートや品揃え・営業時間など、既存フランチャイズの店舗運営に問題があるからだ。既存フランチャイズ店の質を高めつつ、直営店をフランチャイズ店に置き換える。いわば、海外コンビニの「日本化」が必要となる。これは容易ではない。すでに、海外のコンビニオーナーが危機感を高めているからだ。
4年前には、米セブン-イレブン加盟店オーナー団体「NCASEF」の幹部が来日し、「本部以外からの仕入れ制限」「24時間年中無休」など統制が強化され、オーナーの裁量が狭まりつつあることに懸念を表明している。
23年12月時点の海外コンビニの直営店は、5874店(※6)。この店舗数を担う「日本式」コンビニのオーナーを探すことができるだろうか。セブン-イレブン・ジャパン(セブン&アイ)は、海外コンビニとの間合いを詰めたいが「詰めにくい」。そんな状況にあるのではないだろうか。
共存共栄の理念コンビニ大手の本部がフランチャイズとの関係について語るとき、必ず使われるのが、「共存共栄」という言葉だ。セブン-イレブン・ジャパンも例外ではない。
「加盟店様と弊社は、創業以来の『共存共栄』の理念と明確な役割分担に基づき、対等な立場で共同事業を営んでおります」(セブン-イレブン・ジャパン) 当社子会社に対する公正取引委員会からの排除措置命令について
セブン-イレブン・ジャパンと加盟店(オーナー)は、共存してはいる。だが、「共栄」とまで言えるかどうか。今後、セブン&アイはコンビニ事業に集中することになる。国内・海外とも、共存だけではなく、「共栄」することを期待する。
【注釈】
※1 (株)セブン&アイ・ホールディングス(3382) 2024年2月期決算短信 ※2 持分比率:自社が持つ株式数と発行済株式数の比率
連結:株を持つ会社(この場合セブン&アイ)と、株を持たれる会社(イトーヨーカドー)を、1つの組織とみなし、それぞれの決算書を合算して、全体決算書を作成・報告する。株を持つ会社(セブン&アイ)の持分比率が50%超か、実質的な支配力がある場合、投資される会社は連結の対象、すなわち連結子会社となる。
持分法:株を持つ会社(この場合セブン&アイ)の持分に応じて、株を持たれる会社(イトーヨーカドー)の利益・損失を配分し、財務諸表を作成する。持分比率20%以上が条件だが、一定の要件に該当する場合は15%以上でも、持分法適用会社となる。
※3 セブン-イレブンフランチャイズ(Cタイプ) 契約の要点と概説 ※4 2021年企業活動基本調査確報-2020年度実績-|経済産業省 ※5、※6 株式会社セブン&アイ・ホールディングス 2024年2月期 決算補足資料
【参考】
株式会社セブン&アイ・ホールディングス 決算説明資料他
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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