「2050年ネットゼロ」のコストは650兆円
企業が収益率マイナスの投資をおこなうことはありえないが、それが環境に負の外部性をもたらす場合は、政府が規制することが考えられる。かつて大気汚染がひどかった時期にはそういう規制が行なわれたが、CO₂は大気汚染をもたらすわけではない。
IEAの報告によれば、「2050年ネットゼロ」に必要なコストは世界のGDPの約4%である。日本では毎年25兆円、金利を無視しても2050年まで26年間で650兆円である。
ではネットゼロのメリットは何か。杉山大志氏の計算によれば、2050年に日本がCO₂排出ゼロにしても、地球の平均気温は0.01℃も下がらない。日本の排出するCO₂は世界の3%にすぎないからだ。
大気汚染の規制には空気がきれいになるという明らかなメリットがあったが、脱炭素化のメリットは30年後に0.01℃気温が下がるだけなのだ。世界のすべての国がネットゼロにしたとしても、2100年に気温は1℃下がる程度である。先進国では、その効果はわからない。
80年後の人類のために1℃気温を下げる夢は美しいが、そのコストは全世界で毎年4.5兆ドル。世界のODA(開発援助)総額の20倍である。温暖化の被害を受ける熱帯の人々は、その1割でもいいから食糧や医療援助に使ってほしいだろう。
第6次エネ基は、菅首相の宣言した「2050年カーボンニュートラル」と辻褄を合わせるために2030年の電力需要は減ると想定し、そのうち36~38%を再エネでまかなうという絵空事を描いたが、現実には再エネは21.7%(うち水力が9.2%)で、FITの新規認定はほとんどなくなった。
5月15日に開かれた総合資源エネルギー調査会の資料を見ると、第7次エネ基でも脱炭素化が最優先の課題として掲げられているが、こういうアジェンダ設定はもうやめてはどうか。
いま緊急の課題は脱炭素化ではなく、データセンターや半導体などの急速な成長で、電力消費が増えることだ。AIやデータセンターなどの電力消費は2022年から26年までに約2倍に増えるとIEAは予想している。
国内でも減少していた電力消費が増加に転じ、2050年までに最大37%増えるというのが電力中央研究所の予測である。このようなハイテク施設にとって大事なのは電力品質である。半導体は0.1秒電圧が下がっただけでパーになることもある。天気まかせの再エネは電圧が不安定で、使い物にならない。
マイクロソフトはデータセンター専用の原発の開発を計画し、ビル・ゲイツの開発している高速炉を採用する可能性もある。オープンAIのアルトマンは、次世代原子炉を開発する企業のCEOになった。大量の電力を安定して供給する原子力は、大量の情報を超高速で処理するAIと一体なのだ。
日本の「失われた30年」の大きな原因は、製造業の空洞化だった。雇用を国内に戻すには、安定した電力を低コストで供給することが不可欠である。脱炭素化などという夢物語より、原発を再稼動して電力供給を安定化することが緊急の課題である。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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