安倍派から所属議員へのキックバックを「収支報告書に記載しない」ということの意味が、「通常の政治資金と同様に扱うが、単に収支報告書に記載しない」という趣旨なのか、「裏金」として、通常の資金とは異なる領収書不要の金として扱ってよい、つまり「自由に使ってよい金」という趣旨なのか、安倍派事務局長と所属議員の会計担当者は、どのように供述していたのか。
その頃から、安倍派から所属議員に「裏金」がわたっていた、との報道が行われるようになり、松野博一官房長官についても「1000万円裏金受領」が報じられ、国会での野党側の追及に「答弁差し控え」を繰り返した松野氏は官房長官辞任に追い込まれた。そして、その後、岸田文雄首相は、安倍派の大臣・副大臣8人全員を事実上更迭する事態に至った。
この際の報道のキーワードとなったのが「裏金」であり、その政治資金パーティーのノルマ超売上のキックバック問題が、単なる収支報告書の不記載ではなく、「裏金」の実体があるからこそ、そのような言葉が使われているだろうと誰しも思ったはずだ。
このような情報が安倍派側からは出ようがなく、検察側からのリークである可能性が高いが、リークしたかどうかはともかく、検察側が、もし「裏金」ではなく単なる「不記載」だと認識していたのであれば、非公式で行われる東京地検次席検事の定例会見等において、その点を是正するのが当然であろう。
改めて考えてみると、今回の事件では、安倍派幹部や所属議員にキックバックされた「裏金の金額」が連日のように報じられてニュースや新聞紙面をにぎわし、世の中は、その「裏金」に対して怒りを爆発させたが、その割には、キックバックされた「裏金」の使途の話が全く報じられない。
また、逮捕された池田佳隆衆議院議員の被疑事実でも、在宅起訴された大野泰正参議院議員の起訴事実でも、「虚偽記入」とされているのは、収入欄に、キックバックされた「安倍派からの寄附」を記載しなかったことだけだ。支出欄の虚偽記入は全く問題にされていない。結局、それらには、「裏金」の実体は全く含まれておらず、寄附についての不記載だけの問題であるようにも思える。
しかし、一方で、もし、単なる「収支報告書不記載」に過ぎなかったのであれば、もともとは形式的な違反に過ぎなかった上脇氏の告発事件の検察捜査で派閥の会計担当者の聴取が行われるようになった際に、自民党側が動揺し、騒ぎが大きくなっていたのはなぜなのか、特に、自民党側の認識や状況を正確に把握しているはずの政治ジャーナリストの田崎史郎氏などは、当初から、
「この事件は大事件になる。『令和のリクルート事件』」になる」
と述べていた(12月3日、BS朝日「激論クロスファイア」)。
しかも、全国から、年末年始休暇返上で数十人もの応援検事を集めた大規模捜査体制で捜査が行われたことからしても、「裏金」の実体があったことについて当事者の供述がなく、単なる「不記載事件」としての証拠しかなかったとは思えない。
安倍派幹部が、口を揃えて説明しているように、単なる「不記載」であり、裏金の実体はないのか、それとも、これまで報道されてきたように、通常の政治資金とは異なる「表に出せない金」としての「裏金」なのか、それは、事実上終結した検察捜査の中で、安倍派の事務局長の供述、所属議員の会計責任者等の供述によって明らかになっているはずである。
前者であれば、この事件について、昨年12月以来報道されてきた「裏金報道」は、虚偽とまでは言えないが、実体とは大きく異なり事実を歪曲する報道だったことになる。逆に、後者であれば、安倍派幹部は、この期に及んでも、今回の事件の核心部分について重大な「虚偽説明」をしていることになる。
この点は、国民にとって、日本の政治・社会に大きな影響を生じさせる重大な事項であり、検察当局は、起訴された国会議員、会計責任者等の公判を待つまでもなく、現時点で明らかにできる事項だけでも説明をすべである。
それをしないのであれば、法務大臣が一般的指揮権(検察庁法14条本文)に基づいて、本件に対する適切な対応を行うよう検察当局に指示すべきであろう。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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